雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「――んっ」

リビングの方から差し込んで来るあかりは、夕焼けからいつのまにか微かな白い筋になっている。
怒りに満ちた口付けは、私たちを悲しみの中に堕として行く。

「雪野……、答えろっ」

乱れた吐息と共に、掠れた声が吐き出された。
荒っぽく強く腰を引き寄せられて 、首筋にあてがわれた創介さんの唇が強く私の肌を啄ばむ。

「や、やめて――」
「やめてほしければ、言え」

それは私を怒鳴りつけるものなのに。その声は泣いているようにも聞こえた。

どれだけ創介さんが怒っているのか。
どれだけ苦しんでいるのか。

それが分かるから、余計に何も言えない。

「本当に、私は何とも思ってないんです、苦しいなんて思ってない……っ」

これから先も、創介さんの傍にいたい。
だから、創介さんに心配なんかさせるわけにはいかない。

これ以上足枷になったら、私は創介さんの傍にいられない――。

「本当だよ。あれくらいのこと、平気だからっ!」

私が思わず叫んだ声に、創介さんが見せた表情――。

整っていたはずの前髪が一筋落ちて目にかかり、とても哀しそうで。
その表情に酷く胸が痛んだ。創介さんにこんな顔をさせている。

「くそっ」

身体を反転させられると、ちぎられそうなほどに強い力で後ろから抱きしめられる。

 背中に触れる創介さんのスーツ越しの身体。耳にかかる吐息。
 鉄の扉に手を付く。必死で身体を支えようと、冷たい扉に手のひらを押し付けた。哀しくて涙ばかりが零れる。乱暴にされればされるほど、創介さんの哀しみが伝わって来る。

「雪野……っ」

中途半端にはだけた乱れた着衣のまま、創介さんがきつく身体を抱く。

「雪野、お願いだ。雪野――」

呻くように私の名前を何度も呼ぶ。

 激しく身体を這う手のひらに、哀しいのに私からいつもと違う声が漏れる。創介さんに淫らに変えられた身体は、こんなに荒っぽく触れられているというのに、それが彼の手なら、簡単に身体を火照らせる。
 この心も身体も、何年もかけて創介さんで埋め尽くされて。どうしようもないほどに、彼を求める身体に作り替えられてしまったんだと思う。だから、こんなに哀しい行為でも、はしたなく乱れてしまう。

 それでもやっぱり、創介さんはできないのだ。私を傷つけるようなことはできない。

いいのに――。

どんなに乱暴にしたって構わないのに。

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