雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


雪野、どこにいる――?

『弱り切った彼女を送って来ただけだ』

理人の言った言葉がふっと蘇る。

理人――。

考えたくはない。でも、もしかしたら、理人は何か知っているかもしれない。手掛かりになるものは何でもすがりたかった。それが理人だろうがなんだろうが、ただ必死に電話番号を表示させる。耳に強くスマホをあてた。秋の夜の冷たい風が、シャツの襟を揺らす。

この夜空の下、どこにいる――?

(どうしたんですか? なんで、僕に電話なんか――)

理人の敵意に満ちた声に構わず、俺は叫んでいた。

「雪野を知らないか? 雪野がいないんだ」
(……えっ?)

理人の声音が変わる。

(いないって、さっき、あなたが部屋に連れ帰ったでしょう?)
「いなくなったんだ」

スマホの向こうで理人が絶句した。

(どうして……)
「雪野から何か連絡あったか? 何でもいい、雪野が行きそうな場所、知っていることがあったら教えてくれ」

理人が雪野の居場所を知っていたとしたらそれは辛いはずなのに、それでも何でも知りたい。

(知るはずがない。雪野さんが、僕に連絡なんかして来るはずがないだろう? どれだけ取り乱してるんだ。しっかりしろよ)

分かってる。もう昨日からずっと、正気じゃない。

(もし、本当に雪野さんが出て行ってしまったなら、兄さんの顔を見ているのが辛くなったんだろう。辛いのに、兄さんには何も言えないから)

理人は、やはり何かを知ってる――?

(雪野さん、今日、榊の家に来てた。美枝(みえ)叔母さんに呼ばれたみたいだ)
「なに……?」

どんなことだって知りたいと思ったくせに、これ以上、何かを知るのを拒絶してしまいそうになる。

(叔母さんとお父さんと雪野さんが居間で話しているのを立ち聞きしたんだ)

理人の低くて強張った声を、ただじっと聞いていた。

(雪野さん、泣いてたよ。兄さんと別れたくないって。離婚したくないって……)

大きな通りの真ん中で体がぐらりと揺れる。

(結婚して、現実を知っただろうって。雪野さんが苦労する必要ない。お互いに相応しい相手がいる。新しい道を探せる。でも、兄さんからは絶対に雪野さんを手放さないだろうから、雪野さんから離婚を切り出してくれって――)
「ふざけるな!」

理人に怒鳴りつけたところで相手が違うのに。もう、俺の心は壊れてしまいそうだった。

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