雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
(可哀想だったよ。見てられなかった。叔母さんの言う通り、兄さんと雪野さんは結婚しちゃいけなかったんだ。どうしたって、辛い目に遭うのは雪野さんばっかりだ)
スマホを握りしめる手が震える。
(雪野さんだから周囲から軽く見られる。もし、兄さんの奥さんが宮川さんだったら、もっと兄さんをサポート出来ただろうってさ。今でも、兄さんのところに嫁ぎたいと思っている家はいくらでもある、そんなことまで雪野さんに言っていたよ。本当にそういうの、反吐が出る)
もう、やめてくれ――。
見てもいないのに、そんな事を言われている雪野の姿が浮かび上がる。
(あんなに酷いこと言われて、離婚しろとまで言われても、雪野さんは兄さんに頼れない。何も言えないんだよ!)
「どうして……っ!」
さっき、俺が何度聞いても、雪野は頑なに”大丈夫だ”と言い張った。そんなことがあったというのに。
赤の他人じゃない、俺の家族にまで――。
(この結婚はお互いが辛くなる。兄さんも苦しめることになる。そう言われたからだよ。雪野さんが苦しむ姿を見ていなければならない兄さんも辛い。雪野さんを年がら年中心配していたら仕事にも集中できないだろうって。そんなこと言われて、雪野さんが兄さんに何かを言えると思う?)
今日、自分が雪野に放った言葉が蘇り、それがそのまま突き刺さる。
(雪野さんはがんじがらめだ。周囲の心無い視線も、本当なら味方になってあげなくちゃいけない家族からも、あなたじゃないと言われているんだ。雪野さんは兄さんを愛している。ただその気持ちから結婚した。その唯一の支えである兄さんにも、何も言えない。彼女は一体どこに助けを求める?)
捲し立てた理人が、ふっと息を吐いて、俺を責めるように言った。
(――雪野さん、このままだと間違いなく壊れるよ。僕は、そういう人をずっと傍で見て来たからね。ううん。雪野さんは、僕の母親なんかよりずっと優しくて心が真っ直ぐな人だから、もっと……)
理人の声が遠ざかっていく。
(彼女を解放してやれよ。雪野さんはもっと幸せになっていい。こんなに辛い目に遭う必要なんか――)
解放――?
何を?
(兄さん、聞いてるのか? もしもし? 僕も探してみるから――)
雪野、ごめん。ごめん――。
耐えられなくなって、走り出していた。