雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
ごめん――。
バカみたいに、出て来る言葉はそれだけだ。
どうしたってあの優しい笑顔を、俺は曇らせるのか。
――別れたくない。
そう言って泣いた雪野は、どんな気持ちで俺を見たのか。感情のままにあんな風に抱かれて、それでも、雪野は俺に腕を回してくれた。自分だって傷だらけのくせに、俺の苦しみに寄り添おうとする。
”このままだと、間違いなく壊れるよ”
理人の声がこだまする。俺は、まさに理人の母親を苦しめて来た側の人間だ。
その報いが、今、雪野に向けられているのか。俺が雪野と出会う前に犯した過ちが、巡り巡って、雪野が苦しめられているのか。
ごめん、雪野――。
考えれば考えるほどに申し訳ないと思うのに、雪野みたいに優しくない俺はこう言ってしまう。
お願いだ。どこにも行かないでくれ――。
都会の真ん中なのに、見上げた空には星が瞬いていた。
”創介さん、どうしたの?”
振り返って微笑む雪野の顔ばかり目に浮かんで。
”創介さん――”
振り返ってくれたのに、雪野は俺に微笑んだ後、また前を見て俺から遠ざかっていく。
”創介さん、さよなら――”
追い詰められた手は震えて上手く電話もかけられない。なんとか表示出来た雪野の番号は、繋がらないままで。自宅に電話しても、留守番電話に切り替わる。
この広い空の下で、子供のように途方に暮れる。
どうして今日、もっと優しくしてやらなかったのか。どうしてもっと、雪野を大切にしてやらなかったのか。
雪野、許してくれ――。
雪野は分かっていない。
会社なんか、社長の椅子なんか、そんなものいらないんだ。雪野がいないなら、そんなもの欲しいとも思わない。俺が欲しいのも守りたいのも、雪野だけだ。
どんなに雪野に悪いと思っても、絶対に逃してやることは出来ない。
手あたり次第ホテルを回り、車で二人でよく行った夜景の綺麗な駐車場にも行ってみた。 そのどこにも雪野の姿はなかった。こんなにも長い間、雪野といたのに、俺は雪野が行きそうな場所も分からない。
夜の街を駆け抜ける。こんなにも人も物も溢れているのに、一番探し出したい人はそこにいない。