雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
翌朝目覚めた雪野は、ほんの少しだけれど、表情に笑顔が戻った。
「――創介さん、お願いがあるの」
何故か、俺を雪野のウオークインクローゼットへと呼び寄せて、改まって見上げて来る。
「お願い?」
「宮川さんが私に貸してくれた着物、すぐにでもお返しすると言ったんだけど、私に預かっていてほしいって。いつか、友達になれる日まで……」
「雪野、それは――」
それが雪野にとっていいことなのか分からない。
凛子さんと接することで、雪野にいらぬ葛藤を抱かせることになる。
「あの日は、ただ逃げるように帰って来ちゃって、どうすべきなのか分からなくて、ただ返せないままで。でも、やっぱりちゃんと宮川さんにお礼をしたい。それで、宮川さんがおっしゃってくれたように、いつか友人になれたらいいなって思う。それには、私がもっともっと強くなってからだけど……」
そう言って雪野が少し微笑んだ。
「宮川さんは、私が強くなるまで待ってるってそう言ってくれたんだと思う。だから、今の私のお礼の気持ちだけは伝えておきたい。それで、宮川さんに手紙を出したいって思うんだけど……」
「雪野……」
雪野の表情をうかがうように見つめる。そんな俺に、雪野が微笑みを返した。
「いいですか?」
「……分かった」
「ありがとうございます」
雪野が安心したように息を吐いた。
雪野の心にあるわだかまりを、一つ一つ、解きほぐして。その笑顔が本物になるようにしたい。
月曜日に出勤すると、見てすぐわかるほどに表情を強張らせた神原が俺を出迎えた。何か言いたげな神原に構わず、早々に業務の指示を出す。
「――バンコクに連絡して、逐一状況を報告するように指示をしておけ」
「はい」
「それから――」
自分の席に着くと、改めて神原を見上げた。
「神原に、一つ協力してもらいたいことがある。それは、直接業務には関係ないが構わないか?」
「もちろんです」
神原は、少しの間もなくそう答えた。