雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
店員の威勢のいい掛け声の中、カウンター席に並んで座る。年季の入った店内の壁には、メニューが書かれた少し色褪せた紙がいくつも並んでいた。
「とりあえず、乾杯だ」
頼んでいた生ビールが届き、二人でジョッキを合わせる。
週末、金曜日の夜ということもあり、店内は仕事帰りの緩んだ姿のサラリーマンたちで溢れかえって。カウンター席でさえ、すべての席が埋まっていた。
好都合なことに、隣に座る雪野との距離は近い。今にも肩が触れ合いそうなほどだ。
騒がしすぎるほどの店内が、逆に居心地がいい。周囲を気にすることなく雪野にだけ意識を向けることが出来た。
「――ん? なんだ」
雪野が不意に笑みを零すから、不思議に思ってその顔を覗き込む。
「創介さんとこの店の雰囲気が違い過ぎて。ちょっと、面白いなって」
「そうか? 周り、みんなスーツ姿の男ばかりだ。俺だって同じだろう?」
「うん……。そうなんだけど……やっぱり、何かが違う」
そう言って、まだ雪野が笑う。久しぶりに雪野が笑ってくれて、なんだか嬉しい。
「違うって、何が違う? 俺は、こういう店も好きなんだ。おまえは?」
「はい。なんだか、とっても落ち着きます」
雪野が俺に笑いかける。
「これまで、雪野とはこういう店には来たことがなかったからな。落ち着くなら、良かった」
身体ごと雪野の方に向けて、その顔を見つめる。
やっぱり、こうして雪野と過ごす時間は、心から満ち足りた気持ちになれる。雪野にもリラックスして心を癒してほしい。
「さあ、食べたい物は何でも注文しろ。ほっけでも、軟骨でも、鶏の唐揚げでも」
カウンター席に立てかけてあった手書きのメニューを雪野に手渡す。
「じゃあ、何にしようかな。創介さんは、何がいい?」
「俺は何でも食べられる。どうせなら、この上の段のメニュー、全部食べるか?」
「そんなには食べられませんよ」
とにかく雪野に笑ってほしくて。笑顔にさせたくて。涙を流した分だけ、笑わせたい。