雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「……どうして、ここに?」
本社ビルのエントランス前に立ち、そびえ立つビルを見上げた。
「このビルの最上階が、展望室になってる。行こうか」
「え、えっ? 私も入っていいんですか?」
「いいに決まってるだろ。おまえは、自分が誰だか分かっているのか?」
不安そうな表情を浮かべた雪野の手を引き、残業を終えて帰宅していく社員の波に逆らい社内へと入って行く。
エントランスからエレベーターに乗り込み、最上階へと向かった。エレベーターが開いたと同時に、前方に都心の夜景が広がる。
「……すごい景色」
エレベーターを降りると、雪野が感嘆の声を漏らし立ち竦んだ。
「ほら、行こう」
そんな雪野の手を取り、ガラス張りになっている場所へと歩いて行く。
その広いスペース見渡す限りがガラス窓で覆われていて、まるで自分が空に浮かんでいるかのようだ。
景色に見入る雪野のすぐ隣に立ち、二人並んできらめく夜景を見つめた。三十階から見下ろす夜景は、地上のものすべてを輝かせる。
「……綺麗ですね。以前創介さんが住んでいたマンションからの夜景も素敵だったけど、ここも遠くまで見渡せる。一つ一つの明かりが、連なって。綺麗な光の糸みたいで」
都会の光を存分に感じるために、この時間帯の展望室はところどころにある間接照明以外に、明かりをつけていない。
そのせいもあるのか、そう呟いた雪野の横顔は、先ほどのはしゃいだ表情とは違って酷く静かで憂いを帯びていた。
「――この展望室のちょうど真下に、社長室がある。だから、社長室からはほぼ同じ景色が見られるんだ」
目の前の景色に見入っていた雪野が、俺の方に顔を向けた。
「え……?」
不思議そうに俺を見上げる雪野に、俺も雪野を見つめる。
「これまで、俺の丸菱に対する考えをきちんと話したことはないよな。だから、改めておまえに話をしておこうと思って」
これまでは、この世界のことを雪野から遠ざけてあげたいと思っていたところがある。
遠ざけて、なるべく触れさせずに。
そうすることで雪野を傷付けずに済むと。
でも、それでは本当の意味で雪野を守ることにはならない。そう思ったのだ。