雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「俺は、あの家で生まれた瞬間から、
”子”や”孫”である前に、”丸菱の後継者”だった。自分で何かを考える前にそのレールが敷かれていた。誰も彼もが俺にそれを望んでいるのが分かっていたから、何を考えることもなくそのレールに乗ったんだ」
自分から考えたことも、その道を切望したこともない。
「でも、社に入って、実際に働いて。自分の責任みたいなものを肌で感じた。子供の頃は選択肢を与えてもらえないことに心の中で反発したこともあったが、少しずつ考え方が変わった」
見つめた雪野の目が揺れる。俺の言おうとしていることを想像して、心が揺れているのか。
「自分の生まれながらの運命みたいなものを、諦めではなく前向きなものとして考えられるようになった」
雪野が黙ったまま、ふっと俺から目を逸らす。
「そんな風に思えるようになったのは、おまえがいるからなんだ」
この先、雪野に負い目など少しも感じさせたくない。感じさせるつもりもない。
そのために、俺に課された使命を果たしてみせる。
「もし、雪野と出会っていなければ、”社長にさえなればいいんだろう"なんて、他人に言われるがままの投げやりな人生だった。でも、今はそれが目的じゃない。俺の人生の目的は、雪野と二人で幸せになること。だから、雪野と一緒でなければ意味がない」
「創介さん……」
雪野がおそるおそる俺を見上げる。その不安げな表情に、この想いをすべて伝えたい。
「俺は、雪野と生きて行きたいからおまえと結婚した。雪野だから結婚したんだ。
将来、社長になるのに相応しい嫁がどうだなんて議論、意味がない。
俺の生きる目的が社長になることなら、皆が言う『相応しい女』を選んでいたかもな。でも、それが本当に幸せなことか?」
雪野の肩を掴み、真正面に立つ。そして、雪野の目を真っ直ぐに見つめた。
「雪野は何もなかった俺に、本当の幸せをくれたんだ。周囲の人間は目に見えるものしか見ようとしない。そんな奴にとやかく言われたところで、勝手に言わせておけばいい」
これまで雪野に浴びせて来たどんな言葉も吹き飛ばしてやりたい。
「妻の家柄がどうだなんてことで社長になれなかったのなら、俺には最初からそんな器がなかったということだ」
「そんなこと――っ」
「そういうことだろ」
雪野が反論しようとしたのをすぐに遮り、強く肩を掴む。
「俺を、社長になれないのを女のせいにするような、くだらない男にするな」
「創介さん――」
雪野が目を見開き俺を見る。