雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――常務」
一人考え込んでいると、神原がぽつりと口を開いた。
「なんだ?」
「奥様は、いつかきっと誰もが認める社長婦人になられるはずです。地位や肩書に染まることなく、誰に対しても誠実で。そういうことは、時間と共に伝わるものです。私はそう思います」
そう言って神原がぎこちなく微笑んだ。
「……そうだな。そのためには俺が社長にならなければいけないが」
俺がふっと笑うと、神原がやけにムキになって言葉を放った。
「常務は将来、間違いないく丸菱のトップに立たれる方です。間違いありません!」
「それは、どうも」
そんな神原に苦笑する。
「今回、いろいろと調査する中で分かりました。栗林派ではない幹部のご婦人たちは、賢明な方ほど静観されている。ですから、常務の奥様に対しても悪く思ってなどいないと思います。少しずつ、関係を築かれていけば、奥様の居場所も必ずできるはずです」
「ああ」
俺もそう考えている。誰も彼もが肩書だけで人を判断するとは思えない。
それに。
自分にとって利害関係のない人間ならば、特に興味も関心もない。それが、本当のところだろう。だから、そういう人間に目をつけることにした。
「栗林と竹中の両婦人に対しては、本当なら力づくで叩きのめしたいところだが、雪野はそんなことを望んでいないだろうからな。紳士的方法で行くことにしたよ」
雪野なら、どう思うだろうか――。
怒りのあまりに暴挙に出てしまいそうなところだったが、そう考えることでかろうじてそう立ち止まることが出来た。
俺は、本当に雪野には弱いらしい。
雪野の意に反することはできない。
「――常務は、本当に奥様を大事に想っていらっしゃるんですね……」
それはどこかひとり言のような言葉だった。
「ああ、そうだよ。だから、間違いなく――」
でも、俺はそれに真っ直ぐに答える。
「雪野を失ったら、俺は狂うだろうな」
神原の目が怯えたように揺れた。
「――だから。今後あいつを傷付ける奴は、誰であっても絶対に許さない」
紳士的方法も一度までだ。