雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「お父さんと俺の間では、この議論はとっくに終わってる。二年前にやりあって決着がついてることだ。先週、雪野を榊の家に呼んだ時に、お父さんは何か一言でも言いましたか?」
叔母は、悔しそうに口を噤んだままだ。
それもそうだろう。父は、絶対に、雪野に何も言っていないはずなのだから。
「どうしてお父さんが何も言わなかったか、教えてあげようか。お父さんは分かっているからだよ。俺が絶対に雪野と別れるつもりがないってこと。俺と雪野が、どれだけの強い思いで結婚したのかを」
結婚を認めさせたのは簡単じゃなかった。時間も言葉も尽してのこと。父は全部分かっている。
「雪野のためなら榊の家も捨てる覚悟だと、お父さんは知ってる」
二年前、雪野との結婚に反対する父にそう告げた。
「創介……っ」
叔母が、驚きをそのまま表したように絶句している。
「だから、叔母さんがどれだけ喚いても意味がない」
はっきりと分からせる。
俺のこの気持ちが、その辺に転がっているようなものとは全く違う次元のものだということを。
「むしろ、叔母さんが、俺のためにと雪野と俺を引き裂こうとすればするほど、俺は榊の家も丸菱も捨てなければならなくなるな」
「まさか――」
「まさか? そんなこと、信じられないか? だったら教えてあげますよ」
自分の心が叔母に対してどんどん冷めていく。
「俺の方が雪野に執着しているからだよ」
みんな何かを誤解している。
雪野はきっと、俺のためだと思えば去って行くことが出来るだろう。
でも、俺には無理だ。
どんな手を使ってでも、雪野を俺に縛りつける。それがどんな卑怯な方法だとしても。
「雪野が身を引いて俺の元から去ろうものなら、俺は力づくでも連れ戻す。地球の果てまでだって探しに行くさ。"政略結婚"じゃないんでね。家柄さえあれば代わりがきくような存在じゃないんだ」
「創介、あなた……」
目の前の叔母の目には怯えが滲んでいた。
「だから、叔母さんも気を付けてください。雪野に余計なことして雪野がいなくなるようなことでもあれば、俺は自分でも何をするか分からない」
叔母が何か得体の知れないものでも見ているかのように俺を見ていた。
「……それは、私を脅してるの?」
「警告ですよ」
叔母が息を飲んだのに気付く。
「そういう訳だから、俺と雪野のことをこれからも見守っていてくれ。むしろ、雪野がこの家から離れていかないように、力になってください」
最後に叔母に笑顔を向け立ち上がった。