雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
自宅マンションの前に着くと、視界の先にすぐに誰だと分かる背中があった。両手に買い物袋を持ち、エントランスに入って行こうとしている。
「――雪野」
その背中がこちらに振り返った。最初は目を大きく開き、そして次の瞬間にはその瞳が弓なりになる。
「創介さん!」
俺を目にした瞬間の雪野の表情が好きだ。
俺の勝手な願望なのかもしれないが、その顔は心から嬉しそうに見える。
そんな風に感情をそのまま露わにする雪野の笑顔は、一瞬にして俺を甘い男に変えてしまう。
「荷物、持とう。重いだろ」
「大丈夫ですよ――」
すぐに駆け寄って、その隣に立つ。そして、雪野の手から買い物袋を取った。
「いいから」
この声も一段と甘くなる。
「すみません。ありがとう」
エントランスをくぐり、二人並んで歩き出す。
「食料、買いに行ってたのか?」
「はい。夕飯の材料です。でも、創介さん、こんなに早く帰って来てくれるとは思わなくて。これから急いで作りますね」
隣を歩きながら、雪野が俺を見上げる。
「その間、創介さんは休んでいてください」
エレベーターに乗り込むと、二人だけの空間になる。
「雪野は、今日は、ゆっくり休めたか? 昨晩の疲れは取れた?」
その距離を縮めて間近かからその顔を覗き込む。
「え……っ? は、はい」
何を思い出したのか、顔を赤くして目を逸らすからまた苛めてしまいたくなるわけで。
「それはよかった。これでも、かなり反省してるんだ。雪野にこっぴどく怒られたからな」
「創介さんに怒ったりなんか……」
俯いたまま、語尾が小さくなる。
「怒ってただろ? でも、今日は雪野を怒らせるようなことはしないから」
そう言うと、雪野は黙ったまま顔を上げた。
「奥さんに嫌われたら大変だ」
俺を見つめる雪野に笑いかけたのに、雪野は真顔で口を開いた。
「――嫌いになったりしません」
そんな風に真面目に答えられると、今度はこちらが言葉に詰まる番だ。
「今日だって、ずっと、創介さんが帰って来るのを待っていました」
雪野がそう言い終えた時にちょうどエレベーターが開き、雪野は俺の前を歩いて行ってしまった。その背中は盛大に照れているようで、こちらまで気恥ずかしくなる。
結局、そんな風に大真面目に答える雪野が、可愛くて仕方がないのだ。