雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
――というわけで、ここにタイシルクの象がある。
雪野が既に持っているのはパステルカラーのもの。そして、今回新たに手に入れたものは、原色の青、真っ青な象。
喜ぶだろうか――。
「創介さん、寝室にいたんですね」
一人頭の中でぐるぐると考えていると、雪野の声がした。パジャマ姿の雪野が、俺の方へと近付いて来る。
「どうしたんですか?」
「――これ、タイの土産だ」
「え? 出張の……?」
さっと象を戻しておいた紙袋を雪野に手渡す。その紙袋を受け取っても、雪野は目をぱちくりとさせていた。
不思議に思うのも仕方がない。出張土産と言いながら、帰国してから一週間も経っているのだから。
「実は、今日タイから戻って来た部下が、気を利かせて買って来てくれたものなんだ」
雪野が紙袋から中身を取り出す。そして、俺を見上げて目を輝かせた。
「創介さん、これ! タイシルクの象です。前に、創介さんが買って来てくれたもの。私、もう一つ欲しいと思ってたの!」
「そうだろう? だから、俺が――」
「どうしてこれを選んでくれたのかな? 本当に嬉しい」
「いや、だから、そもそも俺が選んでいたのを、俺の部下が見ていて――」
「ねえ、創介さん!」
「あ、ああ、なんだ?」
ここ数週間見たことがないほどの笑顔で。興奮して、雪野がはしゃいだように俺を呼んだ。
「その方に、お礼をしないと」
「いや、だから――」
雪野は、少し何かを勘違いしているみたいだ。
でも、それを正す隙さえ与えないほどに喜んでいて、どうしたものかと右往左往している間に雪野が自分のチェストへと駈け出した。
そして、飾ってあったパステルカラーの象の隣に、この新しい真っ青な像を並べて置いていた。
「こうやって並べたかったの。ほら、二頭が仲良く一緒にいるみたいでしょう? 可愛いなぁ……」
そう呟く雪野の背中をなんとも言えない気持ちで見つめる。
「本当に可愛い。やっぱり、一頭より二頭の方がいいよね」
瞳を弓なりにする、雪野が笑う時の顔。その顔で俺に振り返る。そんな雪野を見ていたら、いい大人が持つ感情だとは思えない感情が沸々と込み上げて来た。
その笑顔は、本当なら俺に向けられるはずだったものなのに。
でもこの笑みは、間違いなく、買って来た部下に対してのもので――。