雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「ねえ、創介さん。その方に、お礼してくれた? もししていなら、私が何かお礼を用意――」
お礼だって――?
お礼ってなんだ。
あの男性社員に、雪野がお礼――。
これを買って来た部下は、年は確か二十四、五だったか。
顔は……そこそこいい男だった。俺とは正反対の毒気なんてまったく感じられない爽やかな好青年と言ったところか。
あの部下の笑顔を思い浮かべる。
だめだ。絶対にだめだ――。
「ねえ、創介さん、聞いてますか――んっ」
振り向く雪野を力づくで抱きしめ、そのまま唇を塞いだ。
「ど、どうしたの? なんですか?」
身体は抱き留めたまま唇を離すと、雪野が驚いたように目を見開いていた。
「これは俺が選んでいたもので、本当なら俺が買って来るはずのものだったんだ。それを部下が代わりに買って来た。そういうことだ。代わりに買って来てもらった礼は俺からしておく。雪野が考えることじゃない」
一息にそう告げると、今度は唖然としたように俺を見つめている。
「ご、ごめんなさい……」
その視線が痛い。
どうしようもないほどに大人げない。雪野もきっとそう思っていることだろう。
雪野が誰か他の男のことで嬉しそうに笑っているのかと思うと居ても立ってもいられなくなって、こんなことを口走っている。
情けなくて、本当にどうしようもない。
働いている雪野が、常日頃から他の男と関わっていることは分かっている。
でも、そのことについては敢えて考えないようにしていた。俺の知らないところでのこと。考え始めたら泥沼だと分かっていたからだ。
でも、俺の部下は、現実の人物として俺の前にいるわけで。嫌でも映像として浮かび上がってしまう。
本当に、俺はどうしようもないバカだと思う。つい一時間ほど前に、『不安に打ち勝てるように強くならないと』と思ったばかりではないか。
雪野に会わせたこともない部下相手に、こんなに取り乱すなんて。不安に打ち勝つどころか、不安に溺れている。
「……雪野、悪かった。くだらないことでムキになって」
雪野の身体からそっと手を離し、ベッドに腰掛ける。
こんなことでは、本当に雪野に愛想を尽かされる……。
――まるで、独占欲丸出しの男だな。みっともないぞー。
木村に言われた言葉がまざまざと思い出される。本当に、いい年をした男がみっともない。
「……創介さん」
腰掛ける俺の隣に、雪野が腰を下ろした。