雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「ここにいる誰よりも雪野は綺麗だ。これまで嫌というほどこういう世界の女を見て来た俺が言うんだ。間違いない」
小さな声で前を見て歩きながら言った。
「自信を持って笑うんだ。心の中では緊張していても、余裕があるふりをしろ。こんな場では、はったりをかますことも大事だ。俺はたいていそれで乗り切っている」
「え? 創介さんが?」
創介さんはもともとが立派な家の生まれなのだから、そんなものを必要とするとは思えない。その言葉に私は驚いた。
「はったりでもかまさなきゃ、自分より一回りも二回りも年上の人間を相手に対等に渡り合うなんてこと、出来るわけないだろ」
そう言って創介さんが笑った。
「この場にいる人間にはいくつかのタイプがある。一つは、自分で何かを生み出したわけでも成し遂げたわけでもないのに、たまたま生まれた家が特別だっただけだけで偉そうにしている奴。あたかもそれが自分自身の力だと勘違いして――俺みたいな奴のことだ」
お互い前を向きながら会話をしていたのに、思わず創介さんの顔を見上げてしまった。
「そういう人間は、空っぽな奴だ。自分という人間の中身がない分だけ虚勢を張る」
「創介さんは、そんな人じゃ――」
「おまえだって覚えているだろう? 初めて会った日の俺のことを」
創介さんが、苦笑する。
「そういう人間のことは、俺が一番良く分かっている。虚勢を張って人を見下して。そうしていないと自分を保てないんだよ。そんな奴の言うことはまともに聞かなくていい。どうせ大した人間じゃない」
「……はい。でも、やっぱり創介さんは空っぽなんかじゃないです」
「もし今の俺がそう見えるのなら、それは、おまえが変えてくれたんだろう? 雪野が俺に自分の愚かさを気付かせてくれたんだ」
そう言って創介さんはまた前を見た。
「生まれ持ったものなんて関係ない。どうやって生きて来たかだ。貧しくたって裕福だって関係ない。本物は人を肩書で判断したりはしない」
確かにそうだ。宮川凛子さんは立派な家に生まれた方だけど、私にも分け隔てなく優しくしてくださった。
「自然と相手を見極められるようになる。さあ、まずは本社の副社長夫妻だ」
「はいっ」
自然と身体に力が入る。
「はったりだぞ? 意識的に堂々と笑え。そうすれば気持ちもそれに付いて来る」
「はい」
私は引きつってしまいそうになる表情を懸命に笑顔にする。口角を上げて、創介さんの隣に立った。