雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
会釈しながら栗林専務がにこやかにこちらへと向かって来る。そして、その一歩後ろに奥様がいた。こちらにたどり着いた栗林ご夫妻が副社長と奥様に挨拶を終えると、奥様が口を開いた。
「栗林さん、今ちょうど創介さんとお話していたのだけれど」
その言葉で、栗林ご夫妻の視線が創介さんへと向けられた。
「あら、創介さんでしたのね。申し訳ございません、気付きませんで――」
栗林専務の奥様が丁寧に創介さんに頭を下げると、創介さんの隣に立つ私に視線を移した。
「……雪野さん?」
そのとき初めて、私の存在を認識したようだった。腰に当てられていた創介さんの手のひらに、優しく力が込められる。
「奥様、お久しぶりです。雪野、栗林専務夫妻に挨拶を」
その手のひらを支えにぐっと足元に力を込めた。しっかりと奥様と栗林専務に向き合う。まず専務に挨拶をした後、真っ直ぐに奥様を見つめた。
「奥様、先日はお誘いくださりありがとうございました。それなのに、大変失礼を致しまして申し訳ございませんでした」
なんとか、声を震わすことなく挨拶をすることが出来た。
「雪野さん、今日は結婚式の時とはだいぶ雰囲気が違うね。一瞬誰だかわからなかった」
栗林専務が笑顔ではありながらも目だけは笑っていないような顔でそんなことを言う。奥様は、この前会った時のような上から見下ろすような視線ではなく、ただ目を見開いて私を見ていた。
このドレスとメイクのせいだろうか。
「それで今、雪野さんの話をしていたんだが」
副社長が栗林専務夫妻に話題を振る。説明を付け足すように、副社長の奥様が口を開いた。
「私、前回の幹部婦人の会合に行けなかったじゃない? 創介さんが奥様のことで大変心配なさっているんだけれど、栗林さん、何か事情をご存知?」
「……え?」
栗林専務の奥様が驚きの表情のまま、副社長の奥様へと視線を向けた。
「そうなんです。妻が、栗林専務のお宅にうかがってからずっと、失礼をしてしまったと気に病んでいまして。私が事情を聞いても詳しいことを話そうとしない。とにかくお詫びをと思っているのですが、どんな無礼なことをしたのか分からないままではお詫びも出来ない」
申し訳なさそうな表情をしながらも、すらすらと創介さんが栗林専務の奥様に言葉を続ける。
「香代、何かあったのか?」
「い、いえ……」
栗林専務からの視線、副社長ご夫妻、そして創介さん。そんな四者からの視線が一斉に栗林専務の奥様に向けられた。