雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


「妻がご迷惑をおかけしたのならお詫びするのが筋ですし、今後のためにも間違ったことは正さなければいけません。でも、本人が硬く口を閉ざすのでどうしたものかと頭を悩ませておりました。私を助けると思って、教えていただくわけにはいきませんか」

「雪野さんも、ご自分の立場上遠慮なさって詳しいことを創介さんに話せないのかもしれない。そんな雪野さんをこれ以上問い詰めるのも可哀そうだし、栗林さん、お話して差し上げて」

副社長の奥様が創介さんの言ったことを助けるように、そう続けた。
ここは私がきちんと言葉を発するべきなのだろう。

だけど、あの日のことをどう話すという――?

でも、創介さんはほとんどの事情を知っていると言っていた。なのにどうして教えてほしいなんて言うのか。

もしかして……。

私は、そこである考えが頭に浮かぶ。

分かっていて、わざと――?

創介さんを見上げた。

あの創介さんが、そんなお芝居みたいなことをするの? 

「別に、失礼なことだなんて、そんなことはされてませんよ。雪野さんの勘違いじゃないかしら?」

栗林専務の奥様が視線を逸らす。発せられたその声は抑揚のないものだった。

「そんなはずはありません」

申し訳なさそうな顔をしていたはずなのに、創介さんは突然厳しい口調でそう言い放った。

「勘違いですむような些細なことではないはずだ。どれだけ気に病んでいたか、見ていたから分かります。妻の性格は十分すぎるほどに分かっている。昨日今日、出会ってすぐ結婚したような関係ではないので」

創介さん――。

「そうらしいねぇ。なんでも、二人はもう五年もの付き合いだって言うじゃないか。創介君がそんなにも一途な男だったなんてな。私も、社長からその話を聞いた時は驚いたよ」

副社長がそう言ったのを聞いていた栗林専務の奥様の表情が、一瞬変わる。

「妻は慣れないこともあり至らない点はあると思います。でも、自分の妻のことではありますが、彼女が真面目で誠実な性格だということは私が一番分かっている。
妻が悔いていることを解消してやりたい。必要なら私も一緒にお詫びして許しを乞いたいと思っています」
「私は、別に……」

栗林専務の奥様の表情に悲壮感が滲み出て、そんな姿を見ていれば黙っていられなくなった。

「創介さん、私――」

私が咄嗟にあげた声を遮るように創介さんが言った。

「――もし教えていただけないのなら、あらゆる手を尽して調べるしかありません。仕事のことなら、どんな状況でも冷静に対処できると自負しているのですが、妻のことになると我を忘れてしまうんですよ」

創介さんの目が険しく鋭くなる。

「これまでずっと、大切に守って来た存在ですから」

< 203 / 380 >

この作品をシェア

pagetop