雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


「――どうかしたのか?」

お父様が創介さんに視線を向けた。隣で、私もすぐに頭を下げる。

 こうしてお父様と顔を合わせるのは、あの、榊の家に呼ばれた日以来のこと。あの日、恥ずかしげもなく、お父様の前で泣いたのだ。その時のことを思い出すと、いたたまれない。

「雪野のことで、丸菱の奥様方のお仲間に入れていただけるよう、お願いしていたところなんです」

創介さんがそう答える。

「お願いだなんてとんでもない。もちろん、出来る限りのことはさせていただきたいと思っております」

複雑な心情を滲ませたかのような栗林専務の声が耳に届いた。

「榊家の大切な嫁だ。皆には、特に、奥様方にはぜひとも大きな心で受け入れてやっていただきたい」

――大切な嫁。

頭上から聞こえた言葉に思わず顔を上げる。

「丸菱を盤石なものにするためには奥様方のお力も大きいということ、皆さんならご存知ですね? いろいろと手助けしていただけますか?」

お父様の表情はいつもと変わらない厳しいもの。視線だけで人を怖じ気づかせることのできる鋭い視線は、栗林専務の奥様に向けられていた。

「もちろんですっ」

奥様が頭を下げる。

 でも私は、違うことで頭がいっぱいだった。

お父様が、私のことを”大切な嫁だ”と言ってくださった――。

その言葉が、私の中で何度も繰り返される。それほどまでに衝撃で、そして、嬉しかった。嬉しすぎて、意思とは関係なく何かが込み上げて来そうになる。

 お父様にしてみれば、この場に適した言葉として口にしただけなのかもしれない。それでも嬉しかった。

「どうか、よろしくお願い致します!」

気付けば、ここにいる方たちに深く頭を下げていた。創介さんの手のひらが私の背中をぽんぽんと優しく叩く。


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