雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
もう一度、深く頭を下げる。そして、皆さんが立ち去った後、私は思わず胸に手を当てた。その時、どれだけこの時間を自分が張り詰めた神経で立っていたのかに気付く。
「雪野、大丈夫か?」
「は、はい。ちょっと、緊張していたみたいで」
創介さんが添えていた手に力を入れて、私を支えてくれた。
「――奥様、その節は、大変失礼いたしました」
突然神原さんが私の目の前に立ち、頭を下げる。それに驚いて焦る。
「そんな、頭なんて下げないでください!」
「いえ、私は奥様に、常務の秘書としてあり得ない態度を取りました。改めてお詫びいたします」
「いいんです。神原さんは間違ったことなんておっしゃっていなかったんですから――」
あたふたとしてしまう私を創介さんが遮った。
「雪野。神原はおまえに謝りたいんだよ。謝罪させてやれ」
頭を下げていた神原さんがゆっくりと顔をあげると、私を見つめて改めて口を開いた。
「奥様、とてもお綺麗です。榊常務のお隣に立つのに奥様以外はいなかったんだと、改めて知ったような気がします」
その目があまりに眩しそうに私を見つめるものだから照れてしまう。
「あ、ありがとうございます」
「これからは、奥様をしっかりとサポートできるよう、精一杯勤めさせていただきます」
神原さんが私に、宣言するようにはっきりと言った。
「今回も、神原がいろいろと動いてくれた。それにしても、皆、出席すると言ってくれてよかったよ」
「はい。常務が練った作戦のおかげです」
作戦――。
その言葉に考えを巡らせていると、二人の会話がまた耳に飛び込む。
「常務、お帰りのお車はどうされますか?」
「必要ない。雪野と二人だけで行きたいところがあるから」
「相変わらず、仲がよろしいことで。それはそれは失礼いたしました」
神原さんが呆れたように笑うから、私の方が恥ずかしくなってしまう。
「では、私は栗林専務に改めて一言挨拶をしてから失礼致します。以前、仕えていた方なので」
「そうだな。上手く、フォローしておいてくれ」
「承知しております」
そう言うと、神原さんは行ってしまった。そして、私と創介さんの二人になる。