雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――今日はかなり喋ったから疲れた。少し、どこかで息抜きをしよう」
「え……? でも、これからパーティー……」
驚いて創介さんを見上げると、腕を捕まえられた。
「パーティーなんてものは、適当に挨拶して笑っておく場所だ。少しいなくなったからって誰も困ったりはしない」
「で、でも――」
「おまえと、二人になりたいんだ」
不意に耳元に唇を近付けて囁くから、肩をすくめる。
そして次の瞬間には会場から連れ去られていた。
受付を駆け抜けると、フロアの奥にソファが置かれていた。先ほどの煌びやかな喧騒は嘘のように、誰もいない静かな場所だった。
「今日は、私のために、あんなお芝居を?」
ソファに腰掛けた創介さんの隣に座り問い掛けた。
「悪かった。おまえには、いたたまれない思いをさせてしまっただろう。当初は雪野を連れて来る予定にはなかったからな。今日、すべてかたをつけてから雪野に話すつもりでいた」
やっぱり、全部計画していたことだったのだ。
「――おまえにしたことを考えれば、栗林の奴を本当ならもっと叩きのめしてやりたかったよ」
創介さんが私の頬に手を当ててじっと見つめる。
「でも、本当に雪野のためになることは何かと考えた。きっと、雪野は、栗林を痛めつけることなんて望んでいないだろうってな。そうは言っても奴らも丸菱の一員には変わりない。この先を考えれば、上手くやっていけることの方が大事だ」
創介さんが、私のために考えてくれたこと――。
「あいつらは雪野を軽く見ている。だからあんな態度を取れたんだ。そうじゃないと分からせたんだよ」
「それで、お父様にも協力してもらった……?」
あの場でお父様が出て来て、私のことを”榊家の嫁だ”と言ってくださったことは、きっと大きな意味になる。それを創介さんは考えた。
それできっと、来月自宅に呼ぶと言ったのも――。
「まあ、あの人が丸菱のトップであることは誰にとっても揺るぎない事実だ。栗林だって、社内で威勢よくしていると言っても、あの人の下にいる。おおっぴろげに反抗的な態度なんて取れない。肩書ばかりを気にする奴らだからな。それを逆手にとって、父の力を利用させてもらった」
そう言って創介さんが笑う。
「完全に関係を絶つのではなく、改めて対等な立場で関係を築いていくためにはどうするべきか。そう考えて思いついたのが、社長宅に呼ぶことだ。俺たちにとってのホームグラウンドだからな。栗林の奥さんも大きな顔は出来ない。今度は、栗林派とは距離を置いている幹部に最初に声を掛けたから、きっとおまえに良くしてくれる」
「創介さん、そこまで考えていてくれたんですか……?」
「俺なりに、雪野を守るとはどういうことか、今回、真正面から考えたよ」
「創介さん、ありがとう……」
目の前にいる人が、とてつもなく大きく見えて、思わずその胸に顔を寄せた。