雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


「君にとっては、やだよね。例え、過去のことでもさ」

気遣うように、木村さんが私を見た。

「まったく気にならない、と言ったら嘘になります。でも、大丈夫です。だから、今のことは創介さんには言わないでいただけますか?」

今更ここで、あの女性(ひと)たちの話なんてしたくない。創介さんにいらぬ気を使わせたくない。

「心の中ではモヤモヤするだろう? 君が少しでも苦痛を感じたのなら、やっぱりそのことを創介は知るべきなんじゃないかな? あいつが過去にしてきたことの結果なんだ。君だけが心に留めて我慢する必要はない」

いつの間にか、木村さんの表情から笑みは消えていた。

「我慢してるわけじゃないんです。この程度のことなら本当に大丈夫」

そんな木村さんに私は微笑む。

「木村さんがおっしゃったように、過去は変えられない。どうすることも出来ない過去のことで創介さんを苦しめたりしたくないです」

自分の過去のせいで、私を辛い目に遭わせたなんて思われたくない。

また、創介さんは苦しむかもしれない。

私の心が離れるのが怖いと、取り乱した創介さんの姿が蘇る。変えられない過去のことなんかで、あの時みたいな思いはさせたくない。

「未来に繋がることなら、何でも創介さんに伝えるってちゃんと決めてるから。一人で抱えて悩んだりしない。創介さんと約束しましたから大丈夫ですよ」

私が笑うと、木村さんが壁から背を離し前のめりになった。

「でも、これだけは信じて。あいつ、君と出会った後は、他の女と会おうともしなかった。本当にまったく。雪野ちゃん以外の女に指一本触れてないよ。女は全部突っぱねていた。俺が保証する。あの獣が本当に真っ当な男になったんだから」
「はい。分かってます」

結局、一生懸命創介さんをかばっている木村さんがなんだか可笑しくて、つい笑ってしまった。

「……ふーん。雪野ちゃんってそんな風に笑えるんだ。余裕の笑み? 満たされている証? なんか今の笑顔、すごく大人びてて見惚れちゃったよ」
「……え?」
「あいつのこと、本当に信じてるんだね」

今度は柔らかな眼差しが向けられる。

「はい、信じています。創介さんの想いは全部信じてる。だから、本当にもう大丈夫なんです。どんな人が出て来ても」
「やっぱり 、君は強いね」

木村さんが私をじっと見つめるから、恥ずかしくなって慌てた。

「でも、そんな風に思えるようになったのも、本当に最近のことなんですよ。それまでは、いちいち傷付いては逃げたくなっていたし。そんな私を強くしてくれたのも、やっぱり創介さんなんです」
「――本当に、君は綺麗になった。蕾が花開いた感じ、なのかな。その蕾を開かせたのは――」

木村さんが目を細めて私を見つめる。

「……おい」

その時、木村さんの背後に佇む創介さんの姿が視界に入った。それと同時に、冷え冷えとするような低い声も耳に届く。

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