雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「こんなところで、人妻を捕まえて何をしてる……?」
鋭い視線がただ木村さん一点に注がれる。
「創介さん、電話もう終わったんですか?」
なんとか創介さんの意識を木村さんから逸らせようと声を掛けた。でも、その視線はまったく揺らがない。揺らがないどころか、よりその視線は強いものになっている。
「だから、怖いんだって。その目、やめてくれよ。視線だけで殺されそうだから」
木村さんが創介さんに振り返り、大袈裟に肩をすくめる。
「だったら、さっさと答えろ。まさか、雪野におかしなことを言っていたんじゃないだろうな……?」
「おかしなって、何。おまえ、どこから聞いてたの」
「『本当に、君は綺麗になった』なんていう、ふざけたくだりのあたりからだ」
今にも詰め寄られそうな木村さんには申し訳ないけれど、心の中でホッとする。すべてを聞かれていたわけではないみたいだ。
ホッとしたのも束の間、木村さんがとんでもないことを言い出した。
「……だって、仕方ないじゃん。『おっ、あんなところに美女がいる!』って思ったら、男なら声かけずにはいられないだろう? それでちょっくらナンパしてみたら雪野ちゃんだったんだよ。ねー」
『ねー』と微笑みながら私に顔を近付けて来る。ただでさえ近い距離にいたから、思わずのけぞってしまった。私は私で、どう反応していいのか分からなくて視線を泳がせる。
どうやら、私がお願いしたとおりに、彼女たちとの事については黙っていてみてくれるみたいだ。でも、なぜだか、創介さんをわざと挑発しているようにも思える。
「おまえ、本気でふざけてるのか?」
木村さんから引き剥がすみたいに私の身体を抱き寄せながら、創介さんが低い声を放つ。その声は、苛立ちの込められたものだった。
「創介さんっ。ばったり会って、ただおしゃべりをしていただけですよ! ね? そうでしょう、木村さん」
このままでは、何の罪もない木村さんが責められてしまうことになりそうで、慌てて二人の間に入った。
「ふざけてるのかと言われても、最初は雪野ちゃんだと思わなかったんだから仕方ないだろ。それだけ、雪野ちゃんが美しく佇んでいたってことだ。本当に綺麗だ。綺麗なだけじゃなくて、今日の雪野ちゃんは、色っぽい。無性にドキドキする」
なんで、そんな余計なことを――!
絶対に、わざとだ。私は確信した。
だって――。
ただただ表情を険しくしていく創介さんとは裏腹に、木村さんは楽しげなのだ。
「勝手に、雪野をそんな目で見るな!」
創介さんが私を背後に隠す。
「おいおい。見るなって、そんな無茶な。俺が見なくても、ここにいる男たちみんなの視界に既に入ってるだろ? 隠しておけるわけでもなし、この先身が持たないよ? そんなことばかり言っているおまえ、恥ずかしくてこっちが見てられない」
「木村さん、そんなこと言わないでください!」
慌てて木村さんを遮るも、まるで耳に届いていないみたいに木村さんはやめてくれない。