雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


「初めまして、榊創介と申します」

会場にいたお父様とお母様に合流した。経団連会長の小暮さんという方を紹介され、創介さんが挨拶をしている。私はその隣に立った。

「榊さんのご自慢の息子さんだね」

年は創介さんのお父様と同じくらいだろうか。創介さんを見て、豪快に笑った。

「どんなに丸菱の業績が上がっても決してひけらかしたりしない人が、君のことはよく話してくれるよ。期待されているんだから、その期待に応えないとな」
「父が、ですか……?」

驚いたように創介さんがお父様に視線を寄せると、気まずそうにお父様が咳ばらいをした。

「そうだ。息子だから社長にしたいわけじゃない。一人の社員として相応しいと判断しているってね。まあ、しらふの時ではなく、二人で飲んだ時のことだけどね」
「やはりそうでしたか。父がそんなことを言うはずがない」

創介さんも笑う。でも、おそらく、それがお父様の正直な気持ちなのだろう。お父様は、誰に対しても何に対しても厳しく、それは息子であっても変わらない。だからこそ、創介さんの能力を公正に判断している。

「私も期待しているよ。この先、有能な後継者が控えているのなら、丸菱も安泰だな。ひいては日本の経済も明るいだろう。日本の経済を引っ張っている企業に違いないんだから、その意識を忘れないでいてくれたまえ」
「はい。十分、承知しております」

頭を下げた創介さんにならい、私も一歩後ろで同じようにする。

 本当に、神原さんの言っていた通りだ。創介さんは、本社の幹部と同じ立場を有する人。間違いなく、いずれ社長への階段を昇り詰めて行く。

お父様はそれを見越している――。

地位ある人を前にして否が応でも緊張してしまうけれど、これからこういうことは増えて行く。緊張ばかりしているわけにもいかない。私もしっかりしなければと、気を引き締める。


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