雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「あの、お父様っ」
ウエイターから飲み物を受け取っていた、お父様とお母様の背に声を掛けた。
「……どうかしたのか?」
ほんの少しその視線を動かし私を見据える。隣に立つお母様が、すぐさまお父様の背の後ろに隠れた。
「今日は、ありがとうございました」
勢いよく頭を下げる。
「何か、礼を言われるようなことをしたかな」
淡々とした口調で、ほとんど表情を動かすこともない。
「皆様の前であんな風に言っていただけたこと、私にとってはとても大きいことで。少なくとも私は、勇気をいただけました。ありがとうございました」
お父様を前にすると肩が強張るほどに緊張する。でも、正直にこの気持ちを伝えたいと思った。
「それに、皆様をご招待するのに、自宅を提供してくださったことも感謝しています。少しでも、皆様と良い関係を築けるよう精一杯頑張りたいと思います」
真っ直ぐにお父様を見つめる。
「――しっかりやりなさい」
声音も一切変わらない短い言葉。
「は、はいっ」
それでも、十分嬉しかった。本当に心から嬉しい。
「お母様。お休みの日に、お騒がせすることになるにも関わらず、ご協力くださいましてありがとうございます」
そして、お父様の後ろにいるお母様にも頭を下げた。この件に関しては、お母様にも少なからず心労をかけることになるだろう。
「……い、え」
視線はそらされ、そして発せられた声は硬い。
いつか、話ができる日が来ることを諦めずにいれば――。
私が諦めずにいれば、叶うかもしれない。
人の気持ちはその人のものだ。私はただその気持ちに寄り添いたい。
「では、また。失礼致します」
二人に向かって、深く頭を下げて、創介さんの元へと戻る。そこには、私を包み込むように見つめる創介さんがいた。
それから、創介さんの隣でいろんな方たちに挨拶をして。”妻の雪野です”と紹介れるたびに、気持ちが引き締まった。
自分が、どうあるべきかを考える。そして、私自身がどうしたいか。
誰でもない、自分の人生だから――。