雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
雪野が倒れたと聞いた時の、身体の中から震えるような、身体中の血がすべて引いていくような、あの生々しいまでの恐怖が俺にインプットされてしまった。思い出すだけで、震えてしまう。
タクシーの窓ガラスに頭を預けて目を閉じても、雪野がいつも俺に見せる笑顔と、さっき病室で見た青白い顔が交互に浮かんで消えて行く。
怖いのだ。怖くて仕方がない。人の命がどれだけ儚いものか。それを見て知っている。
流れゆく車窓が雪野のいる病院へと近付いていく。こんなにも雪野に会うのが怖いと思うのは、初めてかもしれない。今すぐあの身体を抱きしめて雪野はちゃんとここにいると実感したいのに、雪野の前で全然取り繕えない。笑顔一つ、見せてやれない。
面会時間終了の一時間前に、雪野の病室に着いた。夕飯は食べた後みたいで、個室の部屋は薄暗い。既に疲れ切っていた身体は鉛のように重かった。それでも、なんとか表情を作る。
「――雪野」
返事はなかった。
「雪野……」
ベッドについている明かりが灯っているだけの室内。雪野は目を閉じていた。
寝てる、のか……。
おそるおそる傍にいくと、小さな寝息が聞こえた。そのことにホッとしている自分がいる。
椅子に腰を下ろし、寝ているのをいいことに雪野の顔に自分の顔を近付けた。恐ろしいほどに透けてみえる肌。結婚してからずっと苦労をかけた。目に見えて痩せた時もあった。緊張ばかりを強いて、それでも雪野は頑張って来た。小さな頭をそっと撫でる。触れるだけで胸がいっぱいになる。
雪野、ごめん。今日、おまえを傷付けたよな――。
あんなに嬉しそうにはしゃいでいた顔を、俺が一瞬にして曇らせた。じっと眠る顔を見つめていたから、気付いてしまった。微かに、頬に涙の筋が乾いた跡がある。
ごめん。でも俺は、おまえを失いたくない。
頬に触れた先にある瞼がぴくりと動く。そして、それがゆっくりと開いた。