雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「創介さん、来てくれたの? 仕事は? 大丈夫?」
「いいから、そのまま横になっていろ」

俺を視界に捕らえて、すぐに起き上がろうとした雪野を制止する。小さなライトだけが灯る静かな部屋で、俺を見上げる雪野を見つめた。

「気分はどうだ?」
「うん。もう、本当になんともない。夕ご飯を食べて、何もすることなくて退屈してたらうとうとしちゃって……」

俺をうかがうように、それでいて笑おうとして。だからだろうか、その表情はどこか切なく見えた。

「――雪野」
「ん?」

笑顔を向ける雪野に、問い掛けた。

「自分が貧血気味だってこと、知っていたのか?」

何年も一緒にいて、こうして夫婦になっても俺は知らずにいた。

「……え?」

見せていた笑顔が消える。そして、またその表情に笑みを戻した。

「ああ……うん。でも、職場の健康診断で、少し引っかかったっていう程度のことで。特に定期的に治療が必要とかそういうものじゃなかったから、自分でもあまり気にしたことなくて。貧血が進んでいたなんて気付かなかったよ」

結婚して、酷いストレスと心労を与えた。

それに、今回の妊娠――。

「これからはちゃんと自覚して気を付けるね。食べるものにも気を使わなきゃ。料理も頑張る。それにね、妊婦でも飲める薬もあるんだって。それ以外にも、いろいろ自分でも頑張れることはあるみたいだから――」

そんな風に微笑む雪野を見ていたら耐えられなくなった。

「頑張る頑張るって、これ以上頑張ったら、おまえはどうなる?」

また――。
こんな風にしか言えない。

「創介さん……」
「……ごめん」

雪野の視線がずっと俺の目に向けられているのが分かる。言葉で隠した俺の本当の心を、必死で読み取ろうとしているみたいに。それから逃げるように、視線を逸らした。


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