雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「眠かったんだろ? 眠いならもう寝た方がいい。雪野の顔を見に来ただけだから。明日の朝、迎えに来るからな。今日は、ゆっくり眠れ」
「――創介さん! 夕飯……夕飯は、ちゃんと食べましたか?」
俺が腰を上げようとした瞬間に、雪野の細い指が俺の腕を掴んだ。ベッドに横たわっている人間のものとは思えない力だった。
「まだ食べていない。でも、俺も子供じゃないんだ。飯くらい適当に食べるから」
「そう、だよね……」
その質問に答えるけれど、雪野の真意はきっとそこにあるわけじゃない。
「創介さん」
もうそこに笑顔はない。さっきまで懸命に作っていたであろう笑顔は完全に消え去って、ただ不安そうな目で必死に俺を見上げている。
「――帰る前に、抱きしめてくれますか?」
その声を聞いた時、激しい痛みが胸を貫いた。雪野にそんなことを言わせているという事実が、どれだけ自分が雪野にいつもと違う態度を取っているのかを思い知らせる。
「雪野……」
薄い肩を引き寄せ抱きしめる。そうしたら、雪野の腕がきつく俺の背中を締め付けた。
「――今日は、心配かけてごめんなさい」
雪野が息をひそめるように俺の腕の中で言った。
どうして、俺は雪野に謝らせているのか――。
本当なら喜びに溢れるはずの日で。幸せを一緒に噛みしめる日のはずで。雪野が倒れたりしなければ、俺はもっと、心からその喜びに浸れたのだろうか。
結婚したら、子供がうまれて。皆が当然のことのように思うことを、今の俺は当然のように思えない。
「謝らなくていい。おまえは何も悪くないよ……」
そっと雪野の背中を撫でる。
そう。雪野は何も悪くない。
悪いのは、起きてもいないことを心配して不安になり過ぎている俺だ。
頭では分かっている。理屈でも理解できる。なのに、心が言うことを聞かない。