雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
明かりの点いていない暗い部屋に、一人戻る。
結婚してから、この部屋で一人夜を明かすのは初めてのことかもしれない。俺自身が出張で家を空けることはあったが、誰もいない部屋に帰るのは初めてだ。いつも、そこには雪野がいた。
リビングに足を踏み入れて、明かりを点ける。そしてその場で立ち尽くしたまま部屋を見回した。
最初は家具しかなくて、がらんとした部屋だった。でも今は、そこかしこに雪野の気配がある。
飾られた花に、雪野が準備した写真立てに収まっている二人の写真。リビングの一角に置かれた棚には、大小、複数の写真立てがある。
結婚式の時のもの、二人で出かけた時のもの、年末に雪野の実家に行った時に皆で撮ったもの……。
一人でいるには広いリビング――。
雪野と暮らす前はそんなことを思ったこともなかった。小さい時から広い家にしか住んでいなかったから、どれだけ広い部屋に一人でいても寂しいなんて思うこともなかった。でも今は、広すぎて落ち着かない。
リビングを出て寝室に向かう。寝室の扉を開け、そのままベッドに身体を投げ出した。
疲れた――。
ベッドのマットレスに身体が深く沈みこんでいく。
開けっ放しのドアから、明かりが筋になって寝室に差し込む。横たわったままの視線の先に、あのゾウがあった。
『二人になったから、二頭欲しいな』
雪野がそう言った。
雪野と家族になった。もう、雪野がいないと成り立たない。
眠りにつく時、いつも隣には雪野がいて。俺の腕の中で丸まって眠る。思わず腕を上げた。そこにはいない雪野を抱きしめる。
『創介さん。おやすみなさい』
その笑顔を守りたいと、そうして眠りにつくたびに思って来た。
幸せそうに目を閉じて眠るその寝顔を見るたびに、この先もずっと幸せにしたいと思っていた――。
ベッドの真ん中でうずくまれば、雪野の匂いに包まれた。
まだ陽も上りきらない早朝、目が覚める。何度か瞬きをして、起き上がった。
あのまま、寝てしまったのか――。
身体を起こして自分の姿を確認してみれば、昨日着ていたスーツのままだった。
まだ薄暗い廊下を歩きバスルームへと向かう。服を脱ぎ、シャワーを浴びる。朝が来て熱いしぶきを頭から浴びれば、少し落ち着いて来る自分がいた。一晩経って、冷静になれたのかもしれない。
動揺して戸惑って、大きな不安に襲われて。でも、俺がどれだけ取り乱そうが不安になろうが、雪野の中にいる命は今も確かに存在している。それだけは、確かなことだ。その命にとって、俺の感情なんて関係ない。
だったら、俺のすべきことは――。
ほんの少しクリアになった頭で考える。
少しずつ考えて行こう。
白いシャツに腕を通し、ネクタイを締めて、一枚一枚身に纏いながら自分を引き締める。