雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
その日から、なるべく早く帰宅するようにした。
仕事から帰ってキッチンに足を踏み入れると、踏み台に載って棚の上のものを取ろうとしていた雪野に思わず声をあげた。
「そんなことしなくていい!」
「ご、ごめんなさい」
雪野が怯えたように俺を見る。
その目――。
倒れた日からここ数日、雪野が俺に見せる目だ。慌てて踏み台から降りた雪野は、肩を強張らせていた。
「足でも踏み外したらどうする。危ないことはするな。家事も負担になるものはしなくていい。家政婦とか、そういうもの頼んだっていいんだ」
雪野が取ろうとしていた鍋を手に取る。
「家政婦だなんて必要ないです。私、病人じゃないんです。もちろん無理したりはしません。でも、家のことくらい自分でできます」
「注意して注意し過ぎることはないだろ――」
「創介さん」
雪野が俺をじっと見つめている。その目は、誰か知らない人を見ているような、そんな目だった。
「……創介さん、全然笑ってくれませんね。私を見る度、いつも怖い顔してる」
「雪野……」
「――すぐ、ご飯できますから」
そう言うとすぐに俺に背を向けた。
「心配から、つい。だから――」
「うん、分かってる」
雪野は俺に振り返り、笑みを見せてくれたけれどそれは無理をして作っているようなものだった。