雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


 それから少し経った、晴れた日。その日は、朝から会議が詰め込まれていた日だった。

「常務、次の会議室は第二になります」
「分かった。資料の準備は?」
「はい、出来ております。では、五分後には始まりますので」

分単位でスケジュールが組み込まれている。一息つく暇もなかった。

「さて、行くか――」

デスクから離れた時、電話の鳴る音がする。

「すみません。すぐに出ます」

電話に出た神原がすぐに声を上げた。

「常務、常務のお母様からお電話です」

え――?

一瞬、聞き間違いかと思った。

お母様って、あの人か――?

今、俺にとっての母はあの人しかいないのに、そんなことを自分の中で確認してしまう。

どうして、あの人が俺に――?

絶対にあり得ない人からの電話に緊張が走る。

「ああ、分かった」

デスクの上にある電話の受話器を取る。

「もしもし――」

受話器の向こうから、初めて聞く電話越しの声が鼓膜にこびりつく。

(雪野さん、今、病院にいます。あなたが来るべきだと思って電話しました)
「病院って……」
(流産したんです。早く来てあげてください)

そう言ってその電話は切れた。

流産って、どうして……。

雪野は、大丈夫なのか? 今すぐ、雪野の元に行かないと――。

雪野は無事なのか。そのことしか頭になかった。

「神原、会議は全部キャンセルしてくれ」
「え……っ? 何か、あったんですか?」
「悪い。今日は戻れない」

それだけ言い捨てて、部屋を飛び出した。

 
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