雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「今回は、残念ですが、流産ということになります」
まず、その事実を告げられた。
「……妻の身体は?」
「大丈夫ですよ。子宮にも問題はありませんでした。初期の流産というのは、そう珍しいことではないんですよ。妊婦に問題があるというより、胎児の方に問題があったということが多い。ですから、次の妊娠も問題なくできるはずです」
「そうですか……。とりあえず、妻の身体は大丈夫なんですね」
とにかく、そのことに安堵する。
「ええ。むしろ、身体の問題より心に目を向けてあげてください。とかく、妊婦さんは流産すると自分を責めてしまいますから。心の傷も大きいんです」
雪野が無事だったのなら、誰も雪野を責めたりしない。
「奥様の、心のままの感情を吐き出させてあげるのが、何よりだと思いますよ」
雪野の傍にいて、いくらでも吐き出せたい。そうしてやるつもりだ。
雪野の目が覚めたら帰宅していいと告げられ、診察室から出る。
病室に戻り扉を横へとそっとスライドさせると、雪野の声が聞こえて来た。
「――お母様、今日はすみませんでした」
「もう、目が覚めてしまったの? もう少しゆっくりしていてもいいのよ」
なんとなく部屋に入るのが憚られて、その場に立ち止まる。
「すみません。さっきは、取り乱してしまって。お母様にご迷惑かけちゃって」
その声が震えているのに気付く。
「不思議ね。こういう時って、いつもはあんなに大きかった葛藤が全部消えちゃうのね。あなたが誰かなんて忘れていたわ」
あの人の口調はどこまでも淡々としている。でも、雪野は口籠るどころか、余計に声を震わせて言った。
「私も、誰の傍にいるのかも忘れて、騒いでしまいました……」
泣いている……。
雪野が泣いていた。
「いいのよ。ましてや初めての妊娠でしょ。取り乱さない方が不思議です。哀しいことなのだから、哀しんでいい」
雪野の髪がどことなく乱れているように見えたのは、それだけ取り乱したことの表れだったのか。
「創介さんももう来てくれて、今、主治医のところに行っています。創介さんと顔を合わせているのもお互い気詰りになるだけだから、私はもう帰りますね」
「お母様!」
雪野の必死な声が響いた。