雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「こんな風に、二人だけでお母様とお話できたの、初めてだから。こういう機会があったら、絶対に言いたいって思っていたことがあるんです」
「……何ですか?」
「創介さんのことです」
「そんなこと、今はいいわ。自分のことだけ考えなさい」
「今、言わせてください」
雪野の声は強い意思をあらわにしていた。
「お母様と創介さんの間には、長い間、葛藤があること、創介さんがお母様を傷付けてしまったこと、いろんな複雑な感情が絡まっていることを、少しですけど知っています。そのせいで、今もお母様はきっと苦しまれているんだろうってことも」
いつか、雪野と話をした。あの人に対する俺の今の感情。
「でも、創介さんが言っていたんです。お母様に対して、許せないという感情はもう持っていないと」
「創介さん、が……?」
二人でした会話を思い出す。
「お母様の心の中にある、創介さんに対する罪悪感と憎しみ。その中の罪悪感だけでもなくなれば。創介さんもそう望んでいるんじゃないかと思うんです。それだけはどうしてもお母様に知ってほしくて」
「あなたって、人は……」
あの人の声が初めて機械的なものではなくなった。感情が漏れ出る、そんな声だった。
「何もなかったように、分かり合えるなんてそんなこと思っていません。でも、心の中で何か一つ変わるだけでも、少し重荷を下せるかもしれません」
「もう分かったから。ほら横になって。あなた、気付いているの? さっきからずっと涙を流していること。雪野さんの心の中は、今、哀しみと喪失感で一杯なはずよ。そんな時にまで、他の人のことを考えなくていい」
その言葉と同時に、雪野の嗚咽が耳に届く。
「雪野さんが私に伝えてくれたのは、私のためでもあるでしょうけど、創介さんの気持ちを楽にしてあげたいとずっとあなたが思って来たから。
雪野さんにとって創介さんは、こんな時にまで考えてしまう存在。それだけ愛している人との子を失ったのだから、哀しいに決まっているの。思い切り哀しんでいいんだから」
こんなにもあの人が言葉を尽しているのを聞いたことはない。いつも、父の後ろに隠れて。この数年、声すらまともに聞いたことはなかった。
「でも、雪野さんが私に伝えてくれたことは、ちゃんと受け取ったから。後は、もう自分のことだけ考えなさい」
「は、い……」
こらえていたものが溢れるように、雪野の泣き声が響く。雪野の思いが胸を締め付ける。