雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
”榊常務への質問事項”
そう書かれた10枚程度の資料。
集まった質問を俺が集計して係長に提出した。
その中から係長と室長とで精査して、最終的に榊常務にインタビューする質問事項を決定したはずで――。
おそるおそる資料の表紙を捲る。
一つ、二つ、男性社員から届いたと思われる仕事に関する質問が申し訳程度に足されてはいたが、あの、俺が見た、榊常務のプライベートを聞き出す質問ばかりでほとんど埋め尽くされていた。
「広岡君、榊常務のインタビュー、よろしくね」
「なんだよっ!」
気が立っていたので、振り返りざまに怒鳴っていた。
「こわっ」
わざとらしく肩を竦めた三井が立っていた。
「おまえまで、何の用だ」
「榊常務のインタビュー、私も写真撮影要員として一緒に行くことになったから。うふ」
「はぁ? 写真撮影は、寺内さんが――」
どうして違う係の三井が出て来るんだ。
訳が分からず、聞き返す。
「うん。室長と草陰係長に、ちょーっとお願いしてみたら、『いいよ』って言ってくれて」
「ちょっと……?」
「少しだけ? ほんの少し上目遣いで頼んでみたらあっさり承諾してくれたんです。だから、当日はよろしくね」
そのにやけた顔が、余計に腹が立つ。
「なんで、おまえが?」
「だってほら、私、広報関係でよく写真撮ってるし、そういう場に慣れてるから絶対役に立つよ!」
「そんな理由じゃないよな……?」
じろりと睨みつけると、また顔をだらしなく緩ませて『えへへ』と可愛くもない笑顔を晒して来た。
「だってぇ、"生"榊常務、間近で見たいんだもん。喋ってるところ見たいし? じっくりお目にかかれるこんなチャンス、私たちみたいな平社員にはないじゃない? たとえ自分には縁もないお人でも、いい男を見るだけで心の保養になるんですっ」
「これは仕事だ! 公私混同するのも大概にしろ!」
「なによ、急に。広岡君だって、そんなに仕事に打ち込んでもいないくせに。とにかく。私がカメラマンとして同行しますので、よろしくお願いしますーだ」
ブサイクな顔を俺に突き出して、「ふんっ」と鼻息荒く去って行った。
立ち去りながら一人で喋っている。
「あー、写真、練習しよう。そうだ、二年前の『週刊経済』見返しておこうかな。あの榊さん、最高にかっこいいんだよね~。でも、あれに負けないくらいのすっごいイケてる写真、撮ってやるんだから」
もはや、三井が怖い。
もう、どうにでもなれ。知ったことか――。
俺は考えることをやめた。