雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「まずは、丸菱テクノロジー常務取締役就任にあたりまして、お持ちのビジョン等あれば教えてください」
一問目は、至極まっとうなもの。
「そうですね。現状の実績を礎に、成長をしていくためにも積極的に市場を拡大していく必要があると考えています。そのために、リスクを恐れずに開拓していこうという意識が何より大切なものに――」
迷いのない、簡潔で、分かりやすい言葉。揺るがない視線。そして、知的な低い通る声。その声だけで既に、納得させられる。
リーダーになるために生まれて来たような人なのかもしれない。
――ん?
ここで、榊常務の話をしている姿を一枚撮る予定になっていたはずだが――?
「――ありがとうございます」
常務が答え終わったのと同時に、三井に目だけで合図を送ろうとしたら――。
お、おい……。
カメラを手にはしているものの、ファインダー越しではなく、もう裸眼で常務をガン見している。
それも、固まってる――。
それは、俗に言う”見惚れている”というのだろうか?
仕事しろよ、仕事――!
心がどこかに飛んで行ってしまった同期をこちらに引き戻すべく、大きく咳ばらいをした。
そうしたら、地上に戻って来たらしく。慌ててカメラを構え出した。
それから、仕事に関わる質問をする。
「出勤して、まずチェックされることはなんでしょうか」
「そうですね。まずメールのチェックをします。会議が入っている場合は、会議資料。そんなところかな」
「社員食堂は利用されていますか?」
「ああ。頻繁にではないが、ときおり利用することもあります」
そこまでの質問を終えたところで、次に書かれているものに目を留める。そう、次もまだ大丈夫だ。
「次は少しプライベートに関することを聞かせてください。体力づくりに関して意識されていることはありますか?」
「ジムには定期的に通うようにしている。社会人になってからは、意識していないと運動不足になってしまうからな」
「そうですよね。僕なんて、運動なんてまったくしていません。次ですが、何かずっと続けている趣味のようなものってありますか?」
常務が少し考えるような表情をして、再び口を開いた。
「昔は、半ば義務のような感じでいろいろとしていましたが、今は特に何もないですね。仕事ばかりです」
いろいろ――こういう上流階級の人は、乗馬とかヴァイオリンとか習っていたんだろうな。たしなみ、なんて言って。
「ありがとうございます」
次の質問事項を見て、思わずため息を吐きそうになる。
とうとう来たか――。
「では、次ですが――」
引き締まった表情の常務を見る。そして、俺には嫌な緊張が走る。
まさか仕事にはまったく関係ない質問が来るとは微塵も思っていなそうなその表情に、胃がきりきりと痛んだ。
でも、もうどうなったって知らない。
俺は半分自棄で口を開いた。