雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「常務は、近頃ご結婚されたとうかがいましたが――」
突然話題が180度変わったことに、常務が面喰っているのがありありと分かる。その切れ長の鋭い視線が、わずかに動いた。
「奥様とは、いつ頃どのように出会われたのですか?」
「……え?」
先ほどと少しトーンの違う常務の声。
そして、それは一体どういう意図かと言わんばかりの俺に向けられる視線――。
「えっと、ですね。今回、榊常務にインタビューをするにあたり、社員から常務への質問を募集したんですが、やはり常務のご結婚に関する質問が多数寄せられまして。社員が読む広報誌になりますので、なるべく社員の要望に応えるような紙面にしたい。つきましては、なるべくお答えいただけたら、社員が喜ぶのかな、と……」
必死に言葉を紡ぐ俺の視界に、わざと三井が入って来る。榊常務からは死角になるせいで、『もっと、押せ!』とジェスチャーで騒がしい。
「そう、ですか……。分かりました。なるべく、答るよう、努力します」
榊常務が、戸惑いを隠せない様子のまま、そう言ってくれた。
そのことにとりあえずほっとする。俺の背後からもホッとしている空気が伝わって来る。ただ一人、神原さんを除いて。
そして、俺の目の前で今にも小躍りしそうな奴……。
「で、なんでしたか」
「は、はい。奥様とはいつ頃、どのように出会われたかについて、です」
常務が、何か思いを巡らせるように手を顎のあたり持って行く。
カシャっ、カシャっ――。
ん、なんだ?
そう思ったら、突然、三井が写真を撮りまくっていた。
結婚指輪をした方の手、手首から見えるいかにも高級そうな腕時計、その腕を膝について考え込む姿――。
なるほどね。もう、分かって来た。奴の思考回路が。