雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「妻とは、私が大学4年の時に出会いました。まあ、学生同士の集まりみたいな場所に、彼女が友人に連れられてやって来てそれから――という感じかな」
先ほどのきっぱりとした口調とは違う、どこか、困ったような弱ったような表情。
仕事の話題の時とは全然違うな――。
「それってつまり合コン、ということでしょうか!」
突然、叫びに近い声が飛び込んで来る。
「お、おいっ」
カメラマンのくせに声を発しやがって。
とうとう我慢できなくなって出て来たか――!
三井が、恐ろしいほどに真剣な表情で常務に詰め寄っている。
「”合コン”というのとは、少し違うかもしれない。言葉は知ってるけど、したことないから詳しくは分からないが」
常務がかなり困っている。
威厳に満ちたこの人をここまで追い詰めている――。
ある意味、そんな三井はここにいる誰よりも大物かもしれない。
「榊常務は、合コンをしたことがない! そんなの必要ないってことですね? さすがです! ということは、奥様との出会いはどういう感じだったんでしょうか? そこのところ、非常に聞きたいです。広報誌の向こうに何人もの女子社員が待ってますっ!」
って、感心している場合じゃなくて、この女をなんとかしなければ。こいつをこれ以上野放しにしていたら、広報誌係どころか、広報室が吹っ飛ぶぞ。
「おい、いい加減にしろ――」
「三井さん、ちょっと!」
俺が声をあげるよりも大きな神原さんの声が常務室に響いた。
「す、すみませんっ、うちの社員がっ」
室長が神原さんの剣幕に焦る。
「いや、大丈夫。なんとか社員の期待に応えられる回答を考えよう」
榊常務――!
見た目に反して、すごく、親切じゃないか?
「一番近いのは、ホームパーティーかな。そこに、他大学の学生だった妻がたまたま参加して。そこで出会った。これで、いいか?」
「はい、もう、充分な回答です。オッケーです。では、次の質問に――」
気の毒になって俺が切り上げようとしたのに、もはや誰の咎めも耳に届いていないのか三井が暴走を止めようとしない。
「あの、どちらが先に、好意を持たれたのでしょうか? 奥様の方から? それとも常務からですか?」
「あ、ああ、それは、私の方から、かな」
「わー、やっぱりそうなんですね! あのあの、パーティーで初めて会って、それをきっかけにということは、一目惚れってことですよね?」
「一目惚れ――まあ、そうなるのか」
「どう考えても、榊常務のようなお立場の方なら、たくさんのきらびやかな女子に囲まれていたんだと思うんです。でも、奥様は何が違ったんですか? 一目で恋に落ちるなんて、奥様にどんなお力があったのでしょうか。もう、考えただけで胸キュンです!」
おまえが勝手にストーリーを作り出してるじゃねぇかっ!
おまえけにおまえの感想まで図々しくさらりと付け足して。
もう誰も三井を止められない。