雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「まさか、ビンゴ、ですか……?」
おそるおそる榊常務を見る。そして、もう一度奥様の表情を確認する。
奥様は下を向いて黙り、常務は天を仰いだ。
「本当ですかっ! うわーっ。すごい。ああっ。これも記事にしたかった!」
「絶対にやめてくれ!」
常務が声を張り上げた。
「奥様、常務に強引に捕まえられちゃったんですね? 捕獲完了っ!」
そう言って、意味もなく敬礼してみる。
「三井! 『捕獲』とか言うな!」
草陰係長が焦ったように私を咎めた。
「――私、知ってます!」
おっ、何をですか!
いきなり、神原さんが立ち上がった。皆、一斉に彼女を見上げる。
「学生時代の榊常務は、まさに、王のように君臨していたとのこと。誰もがその足元に跪きひれ伏していた。とのことです」
「神原、誰にそんなことを……!」
慌てふためく常務を遮り、私は神原さんを見つめた。
「どうして、神原さんがそんなことを知っているのですか!」
きっと面白いお話が聞ける!
「私の友人が、榊常務と同じ高校大学の同級生でした!」
「おおっ!」
歓声が上がる。
「そんな王には、黙っていても近寄って来る女なんて星の数ほどいる。でも、そこは王です。自ら女に乞うようなことはしない。私はそう聞きました」
「ほー」
皆が皆、ナレーションか何かのような語りを始めた神原さんの話に聞き入る。
「それが、奥様に出会われた王は――」
いつの間にか、榊常務が”王”に変わっている……。まあ、いいか。
「初めて、自ら手に入れたいと強く思われた。そして、初めて自らが跪いたのです」
「おおーっ! それが、奥様! きゃ~」
ドSの皇帝が跪くその瞬間。ああ、女なら一度でいいから味わってみたい!
私は座敷に崩れ落ちる。
男性陣は、ただただ溜息を吐くばかり。
「常務、さすがですね……」
「いや、神原が勝手なことを……。神原! おまえ、もうこれ以上酒は飲むな!」
榊常務はかなりお酒に強いみたいだ。さっきから飲んでも飲んでも一人しらふのようで、大変そうだけれど。
私たちは、とっても楽しい!
「奥様! 奥様は、どんな風に、常務にお気持ちが傾いて行ったのですか?」
最高のシンデレラストーリーだ!
なんなら、丸菱テクノロジーのホームページでミニドラマでもやろうか……。
奥様のお話、もっと聞きたい!
「そ、それは……」
酔っていても、軽はずみに喋ったりしない。素晴らしい奥様だとは思うけれど、それじゃあ、つーまーらーなーい!
「常務、どうやって押したんですか? 僕、未婚で彼女もいなくて。今後の参考にしたいので、ぜひご教示ください!」
古館さん、上手い! いいぞ!
ただ、古館さん。榊常務を参考にするのは、何か間違っている気がするよ。
でも、この際古館さんの将来はどうでもいい。
奥様と常務の馴れ初めを事細かに知りたい――! ←地味にヒドイ(苦笑)