雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「いや、そんなこと、人に言うようなことじゃないだろ――って、神原、何をしてるっ!」
常務が慌てて、奥様からグラスを取り上げる。
神原さんが、奥様にお酒を勧めていたのだ。それに言われるがままに、というよりは楽しげに奥様はグラスを受け取っていたのだけれど、それが見つかって取り上げられてしまった。
「常務では、もう何も答えていただけない。そうなったら、奥様に聞くしか……」
「だからと言って、俺の妻を酔わせるな!」
「あの……っ!」
神原さんと常務がやり取りをしていると、奥様が今日一番の大きな声を上げた。皆が静かになり、奥様を見つめる。
「私、それまで、誰かと交際したことはもちろん、恋したこともなかったんです。だから、普通がどうなのか分からなくて。分からなくて怖かったんです。創介さんが何を考えているのかも、自分の気持ちが何なのかも」
そう言うと、奥様が常務の前にあった生ビールを突然手にし飲み干し、そのジョッキをテーブルに置いた。
「――最初は逃げたいと思っていたはずなのに、気付いたら会いたくてたまらなくなってました。好きになっちゃいけない、危険な人だと言い聞かせていたのに……」
やっぱり常務は、キケンな男なのね――!
「私、恋、しちゃってました! 捕獲完了、ですっ!」
私がしたのと同じように、敬礼した。敬礼……。
皆が、唖然としながらその様子を見ている。
「……雪野」
常務も。
奥様――。
確実に酔ってます、ね……?
なんですか、その可愛いさ。ダメでしょ、それ。
ほら、ここに胸撃ち抜かれちゃった人、いますよ――。
「か、か……可愛すぎる! 常務の奥様じゃなかったら、俺、間違いなく惚――」
「それ以上言うな。これ以上、妻を見るな!」
常務が広岡君に手のひらを伸ばして牽制すると同時に、奥様を素早く自分の背中に隠す。
それにしても、常務、『見るな』って。それは無理というもの。
「……奥様は、常務のどういうところが一番好きですか?」
「一番好きなところは……」
常務が広岡対策に気を取られている間に、読者さんが淡々と次の質問を奥様に投げ掛けていた。
「全部、です。ぜんぶ好きです」
あーもう。好き好き。大好き。その目が、そう語っておる。