雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「姉ちゃん、今日の練習はもういいな。あとは、勝手にやってくれ」
「うん、いろいろ、ごめん」
優太君が鞄を肩にかけると、「それでは失礼します」と部屋を出て行った。
「あ、あの……創介さん、今日は仕事ないんですか?」
二人きりになって、雪野がたずねてきた。
「あ――いや、ないわけじゃないんだ。少し出社を遅らせただけで。ごめん。この後、出勤しないといけない」
本当に、最悪だ。
優太君にも雪野にも、迷惑をかけた。
それでいて、自分はこれから仕事に行かなければならない。
「そうですか。じゃあ今度こそ行ってらっしゃいですね」
雪野の表情は、もういつものものに戻っていた。
「雪野、本当に悪かった。もう、怒っていないか……?」
恐る恐る問い掛ける。
「はい。残念な気持ちはあるけど、でも、創介さんの誕生日を祝えなくなったわけではないから」
「ありがとう。雪野」
まったく俺はどうしようもない。
雪野は俺のことを考えてくれていたのに。
自分の誕生日のことなんて、これっぽっちも頭にはなかった。
「でも、もう、今日みたいなことはしないでくださいね。何か不審に思ったら私に聞いてください。だって、私の知らないところで、不安になんてさせたくないから」
「ああ、そうだな。もう、こんな真似はしない。約束する」
テーブルに置かれていた雪野の手のひらに自分の手を重ねた。
世の夫は、どうやってこの持て余してしまいそうなほどの妻への愛情をやり過ごしているんだ。俺に教えてほしい。
(――普通はな、燃えるような恋愛感情はせいぜい3年が限度なんだよ。その後は穏やかな信頼の愛情に変化していく。いつまで経っても大人にならないおまえがおかしいんだ)
事の顛末をいちおう報告するために木村に電話をしたら、吐き捨てるようにそう言われた。
そして、
(いちいち夫婦のノロケ話をこの世の終わりみたいな顔で話してくるのはやめてくれ!! 腹が立つ! こっちも暇じゃないんだ!)
そうやって電話が切れた。
俺はいつだって真剣だ。惚気話をしたつもりはない。
ただ。
俺の狼狽えぶりが、第三者からはどう見えているのか、いよいよ不安になって来る。