雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
湖を見ながら、ビール片手に焼いた肉や野菜を食べる。
ひととおり食べ終えると、雪野が「大事なものがあります」と意味深な笑みを浮かべた。雪野が準備していたクーラーボックスから、何やら四角い箱を両手に抱えて戻って来た。
「それは?」
「この日のためのものです」
雪野がテーブルにその箱を置き、蓋を開けた。そして、出て来たものに驚く。
「……これ、雪野が作ったのか?」
明らかに市販品のものではない箱だ。
「はい!」
嬉しそうに俺に差し出した。
「いつの間に……?」
「手作りケーキはそんなにもたないので、今朝作りました」
「今朝って……一体、何時に起きたんだ」
二人で食べることを考えたのか小さめではあるが、ちゃんとしたホールケーキだ。
「4時、くらいかな――そんなことより、ろうそくを立てましょう。誕生日ですからね」
喜々として、雪野がケーキに『2』と『9』の数字をかたどったろうそくを立て、火をつける。
「――29歳のお誕生日おめでとうございます」
まだ暗くならない外で見るろうそくの火も、なかなかに綺麗だ。でも、そんなことより、雪野が俺のためにあれこれ考えてくれていたことが嬉しい。
「ありがとう、雪野」
「さあ、火を消して」
促されるように息を吹きかける。
「俺の誕生日は、結婚してからは初めてだな」
火を消した後に、雪野に視線を向けた。
「……はい。夫婦になって初めての創介さんの誕生日だからね。妻として、気合を入れました」
目の前にあるチョコレートケーキに、雪野の想いが込められている。今朝、一人朝早く起きて作ったであろうその姿を思い浮かべて、胸がじんと温かくなる。
「誕生日が楽しい日になったのも、雪野といるようになってからだ。俺の人生は、雪野と出会ってから全然違うものに変わったな」
「どうしたの? 改まって……」
「改まってこれまでを振り返るのが、誕生日だろ?」
不思議そうに俺を見る雪野の頬に指で触れる。そうすると、雪野が首を竦めた。
理屈じゃないのだと、いつも思い知る。雪野といると、この声と指が自然と優しいものになる。