雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「もう……そうやって、いつも私を困らせるんですから」
観念したように、甘い香りのするひとかけらのケーキを俺の口へと運んだ。
「――うん。美味い。最高に美味いな」
甘いものが苦手な俺のことを考え、ビターチョコレートを使っている。甘すぎないチョコレートの味が、口いっぱいに広がった。
「ホント、嬉しそうな顔」
雪野がどこか呆れたように笑う。
「ああ、嬉しいさ。妻に癒してもらえているんだから――」
「あ……っ」
不意打ちを狙うように、素早く雪野の唇を塞ぐ。
「そ、創介さん……っ!」
唇を離すと、咄嗟に辺りを見回して抗議するような目を向けて来た。
「誰もいない」
雪野の方へと乗り出していた身体を戻し、「ここではこれ以上のことはしないから、安心しろ」と言い、残りのケーキを食べる。
「当然です!」
隣から声を上げられるが、その約束を守れるかの自信はない。
せっかくの湖畔。二人で周囲を散策する。ログハウスの周囲は、自然豊かで静かだ。
雪野が俺の腕に手を掛け、並んで歩く。風が吹くたびに葉が揺れる音がした。
「……車の運転、もっと上手くなるからね」
雪野の触れる手の温もりを感じながら、その声を聞く。
「俺の仕事も落ち着いたから雪野の運転の練習に付き合うよ。これ以上、優太君に迷惑を掛けるなよ。あれは、なかなかキツい」
「そんなに、怖かった?」
一瞬躊躇うも、本当のことを言うことにした。
「正直、生きた心地がしなかった。でも、大丈夫だ。運転は慣れだからな」
「……よろしくお願いします。創介さんに安心して乗ってもらえるようにしたいの。この先、絶対必要になると思うから」
「雪野……」
思いもよらず、真剣な目が俺に向けられた。
「創介さんが言ってくれたでしょう? この先、丸菱を大きくしてそのトップに立つこと。それを二人で目指したいって。だから、私も出来ること何でもしたい。車の運転なんて些細なことだけど、これからもっともっといろんなこと身に付けるからね」
「……ああ」
雪野の想いに、上手く言葉が出て来ない。
「創介さんには専属の運転手さんもいるだろうけど、緊急の時は私の運転の方が早い時もあるかもしれないしね。それに、家族が増えたら、私も運転出来た方がいいでしょ?」
「そうだな」
そう言って笑う雪野に、また違う感情も生まれる。そうやって前向きに言葉に出来るようになったことに安堵する。