雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「もう……そうやって、いつも私を困らせるんですから」

観念したように、甘い香りのするひとかけらのケーキを俺の口へと運んだ。

「――うん。美味い。最高に美味いな」

甘いものが苦手な俺のことを考え、ビターチョコレートを使っている。甘すぎないチョコレートの味が、口いっぱいに広がった。

「ホント、嬉しそうな顔」

雪野がどこか呆れたように笑う。

「ああ、嬉しいさ。妻に癒してもらえているんだから――」
「あ……っ」

不意打ちを狙うように、素早く雪野の唇を塞ぐ。

「そ、創介さん……っ!」

唇を離すと、咄嗟に辺りを見回して抗議するような目を向けて来た。

「誰もいない」

雪野の方へと乗り出していた身体を戻し、「ここではこれ以上のことはしないから、安心しろ」と言い、残りのケーキを食べる。

「当然です!」

隣から声を上げられるが、その約束を守れるかの自信はない。


 せっかくの湖畔。二人で周囲を散策する。ログハウスの周囲は、自然豊かで静かだ。

 雪野が俺の腕に手を掛け、並んで歩く。風が吹くたびに葉が揺れる音がした。

「……車の運転、もっと上手くなるからね」

雪野の触れる手の温もりを感じながら、その声を聞く。

「俺の仕事も落ち着いたから雪野の運転の練習に付き合うよ。これ以上、優太君に迷惑を掛けるなよ。あれは、なかなかキツい」
「そんなに、怖かった?」

一瞬躊躇うも、本当のことを言うことにした。

「正直、生きた心地がしなかった。でも、大丈夫だ。運転は慣れだからな」
「……よろしくお願いします。創介さんに安心して乗ってもらえるようにしたいの。この先、絶対必要になると思うから」
「雪野……」

思いもよらず、真剣な目が俺に向けられた。

「創介さんが言ってくれたでしょう? この先、丸菱を大きくしてそのトップに立つこと。それを二人で目指したいって。だから、私も出来ること何でもしたい。車の運転なんて些細なことだけど、これからもっともっといろんなこと身に付けるからね」
「……ああ」

雪野の想いに、上手く言葉が出て来ない。

「創介さんには専属の運転手さんもいるだろうけど、緊急の時は私の運転の方が早い時もあるかもしれないしね。それに、家族が増えたら、私も運転出来た方がいいでしょ?」
「そうだな」

そう言って笑う雪野に、また違う感情も生まれる。そうやって前向きに言葉に出来るようになったことに安堵する。

< 374 / 380 >

この作品をシェア

pagetop