雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
創介さんの出張の前日、いつもより夕食作りに気合いを入れる。
そのために、仕事を定時に上がり急いで帰宅した。
ビーフシチューの鍋の火を止め、テーブルのセッティングをするために、ダイニングに向かった。
帰宅してから電源を入れてあったテレビからニュースキャスターの声が聞こえて来て、スプーンやフォークを並べる手が止まる。
「――本日行われた、民自党総裁選挙で、宮川太一氏が圧倒的過半数を得て勝利しました。これにより、後日行われる首班指名選挙で宮川氏が指名されるのは確実で、新宮川内閣が誕生することになりそうです」
テレビの前に駆け寄ると、そこには、現在の与党、民自党の総裁選挙で勝利した喜びを述べている宮川氏の映像が映し出されていた。
おそらく、創介さんの婚約者だった宮川凛子さんのお父様だ。
本当に、総理大臣になるんだ――。
フローリングに座り込みその画面に見入る。
創介さんが、宮川さんと結婚していたら、義理の父が総理大臣になっていた。
このニュースを見て、創介さんの親族や倉内さん、そして丸菱グループの人たちは、何を思うのだろう。神原さんの言葉も合わせて、私に重くのしかかる。
でも、そんなことは以前から分かっていたことだ。倉内さんからもそう説明されていた。全部分かっていて私はこの決断をした。
目に映る、遠い世界の光景が私の心に入り込んで来る。
分かっていたことでも、こうしてそれが現実になるのを目の当たりにすると、事の大きさが生々しく鮮明なものとして私を襲う。
もし、創介さんが宮川さんと結婚していたら、創介さんの大きな力になっただろう……。
もうずっと前に悩みに悩みぬいて乗り越えて来たことのはずなのに、結婚したことで、あの頃よりずっと現実味を持って理解している自分がいた。
「――今日は、出張前だから少し早く帰った」
玄関のドアが開く音と同時に創介さんの声がした。
取り繕うようにテレビから離れる。何故か、このニュースを見ていたことを知られたくないと咄嗟に思った。
「おかえりなさい。もう、ご飯出来てるから、すぐに準備しますね」
誤魔化した笑顔は中途半端かもしれなくて、逃げるようにキッチンへと向かった。
「雪野――」
リビングに創介さんを残し、キッチンでビーフシチューを皿によそう。
「――経済力も政治力も、何においても強い日本を作りたい。そう思っています」
流れ続けるテレビからの音声が広いリビングに響き渡っていた。