雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「説明ポイントのメモはしっかり作らせていただきます。本当に申し訳ありません」
頭を下げると、頭上から溜息が降って来た。
「――分かったよ。でも、そんなに大事な用事? 凄い人と結婚したらいろいろあるのかな」
ひとり言なのか問いかけなのか分からない言葉に、私はもう一度「すみません」と謝った。
この日の仕事と並行して、説明メモを作る。
仕事のことも少しずつ考えなければならない。
こうして、微力ながら責任のある仕事も任されるようになっていた。それに、自分で稼いだ収入があるというのは私にとって大きい。
でも、神原さんの言う通り、いつまでも働き続けるのは難しいだろう。創介さんと結婚した以上、それも覚悟の上だ。
そして、栗林専務の奥様に電話を掛けた。案内状をいただいたお礼と、出席の連絡のためだ。
大きく深呼吸をする。会ったこともないし、言葉を交わしたこともない方だ。
数回の呼び出し音の後、「栗林ですが」という丁寧な声が耳に届いた。
「突然のお電話、失礼いたします。私、明日のお茶会のご案内をいただきました、榊雪野と申します」
スマホを握りしめる手に力が入る。
(榊創介さんの奥様ね。こんにちは)
上品で優し気な声に、少しホッとする。
「初めまして。これから、何卒よろしくお願い致します」
初めての会話になる。とにかく、失礼のないようにと挨拶をした。ただただ、緊張する。
「明日のお茶会、よろしくお願い致します。何か、事前にお手伝いすることはございますか?」
なんと言ってもまず、かってが分からない。
それに、間違いなく私が出席者の中で一番年下だろう。一から教えてもらうつもりでいようと思った。
(いいのよ。あなたは、明日の会の主役なんだから。新しいメンバーとしてお披露目の場でもあるの。肩ひじ張らずにいらしてね。それから少しずつ知って行けばいいわ)
「ありがとうございます」
(こちらの都合もあるから、時間通りに来てくださるようにお願いします)
「分かりました」
そうして電話を切った後、思わず大きく息を吐いてしまった。
その吐いた息の長さに、自分がどれだけ緊張していたのかを思い知る。