雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

 華織さんのお店で選んでもらった、ネイビーのワンピースを着ることにした。このワンピースは裾を気にしなくていい七分袖。後片付けの手伝いするのにちょうどいい。ネイビーなら落ち着いた雰囲気で、初めての場で間違いはないだろう。

 そして、表参道に店舗のある高級洋菓子店で、菓子折りを準備した。

 神原さんにもらっていた幹部の奥様の資料を何度も読み込み、名前と本社の役員の序列を再確認する。

このお茶会は、副社長以下の役員で構成されるものだった。

こういう世界に足を踏み入れる、初めの一歩。これまで生きてきた人生で、縁のなかった世界だ。

 本当は不安でいっぱいだ。でも、創介さんの妻としてすべきことだと思えば、心も強くなれる。

『ただださえ、急な招待だ。うまくやろうとあまり気負うな。相手は皆、雪野の倍近く生きて来ている人間たちだ』

電話越しに創介さんが言ってくれた。

懐に飛び込むつもりで、心を込めて向き合えばいい――。

何も持っていない私にできることなんて、頑張ることくらいだ。


 案内状に示されていた住所の家を訪ねる。港区の高輪にある白亜の豪邸だった。

 開始時間のちょうど五分前にインターホンを押すと、門が開いた。中へと入って来るように促されて玄関へと向かうと、扉が開く。

「榊雪野さんね。ようこそいらっしゃいました。栗林の妻です」

頭のてっぺんからつま先までじっと見られ、緊張が増す。

「本日は、よろしくお願い致します」

そんな私に小さくふっと微笑んだ。

 現れた奥様は、品の良い雰囲気の綺麗な方だった。ちょうど、私の母と同年代くらいの方だろうか。雰囲気は全然違うけれど。
 手入れの行き届いたヘアスタイルに、カジュアルな服装でありながらきちんとしたロングワンピ―スを着て、こういうお宅に住んでいるのにイメージがぴったりのご婦人だった。

 栗林専務の奥様の後に続いて、部屋の奥へと入って行く。

「皆様、お手伝いいただいた上にお待たせしてしまってごめんなさいね。榊創介さんの奥様がいらっしゃいましたわ」

お手伝い――?

奥様の言葉にはっとする。案内されたリビングを見渡せば、既にかなりの人が集まっていた。

< 81 / 380 >

この作品をシェア

pagetop