雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――創介さんも、榊家の直系なのに出向だなんて」
奥様方の会話のすべてが、私の耳に突き刺さる。
「私たちも丸菱の繁栄を願っている。だから、みなさん心から心配しているのよ? 創介さんには期待していたのに、こんなことで将来を踏み外してしまうなんて、残念で仕方ないのよ」
憐れむように栗林専務の奥様が私を見た。
「社内でも難しい立場に置かれているって言うじゃない?」
神原さんが”噂”だと言って私に口にしてしまったのも、無理はなかったのだ。
これだけ社内で言われていたのであれば、創介さんの秘書として歯がゆい気持ちでいたに違いない。
創介さんに対して、実績の面では誰も文句なんか言えないのは分かっている。その原因のすべては私の存在だ。
私のせいで、創介さんがこんな言われ方をしなければならないなんて――。
「――もしかしたら、この状況をご本人はなんとも思っていらっしゃらないかもしれないわね。丸菱のことよりも何よりも、雪野さんのことが大事なのよ。そんな風に思われて、女性として羨ましいわ」
「違います!」
奥様の創介さんに対する言葉に、考える前に声を発してしまっていた。
私のことは何を言われても構わない。でも、創介さんのことをそんな風に言われるのは耐えられなかった。
「主人は、丸菱のことをどうでもいいだなんて思っておりません。本社にいた時からずっと、全身全霊で仕事をしていました。いつも社のことを考えていました。それだけは、間違いありません」
付き合っている時、創介さんはいつも海外を駆け回り、日本にいる時でも帰宅時間は日付が変わりそうな頃で。休日だって出勤することも珍しくなかった。丸菱にその身を捧げていたと言ってもいい。
そんな姿を見ていたから、勢いのままにそう言ってしまった。
「――それは、申し訳なかったわね。勝手なことを言って。では、またいつか、本社に戻られてご活躍されるのを待っているわ」
栗林専務の奥様の声の冷ややかさが鮮明になる。
周囲の雰囲気しらけたものになり、私に向けられた視線はさらに冷めたものになった。
一番端の席でただ俯くことしかできない。
「今は、栗林専務がいらっしゃるもの。丸菱も安泰ですわ。きっと社長もお心強いはずです」
竹中常務の奥様の声がどこか遠くに聞こえた。