雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


 その後は、会が終わるまで、どんな風に過ごして何をしていたのかほとんど覚えていない。ただ針の筵のような席で、ひたすらに時間が過ぎて行くのを待っていた。

『こういう場にきちんと出ていらっしゃれる方だもの。これからも、ぜひ、参加してくださいね』

帰り際に、そう栗林専務の奥様に言われたのは覚えている。

『来週、各界のいろんなお立場の女性が集まる講演会があるのよ。お心の強いあなただもの。積極的にそういう場に出て行かれて、創介さんのためにもご自分で人脈を築いていくのもあなたのお役目じゃないかしら?』

それには曖昧に答えて、後片付けだけは無心にした。その後は、挨拶を済ませれば、逃げるように帰って来た。


 誰もいない暗い部屋にたどり着くと、冷えたフローリングの上に力尽きたように座り込んだ。

 それと同時に紙袋が床に落ちる音が響く。それは、手土産にと買って行った菓子折りだ。

創介さんの妻という立場にあるのに、あんな風に情けなく逃げ帰って来るなんて――。

床に転がる紙袋を見て、自分の情けなさに床に突っ伏す。

あれくらいのことで心が折れていたら、創介さんの妻なんて勤まらないよ――。

挫けてしまいそうな心を叱咤する。
懸命に自分を奮い立たせる。

宮川凛子さんのような立場の方の代わりに現れたのが私なのだ。

私は何も持っていないんだから、私に対する言葉はどれも全部当然のこと。これから、少しずつ自分に経験させていけばいい。

”私のせいで――”と思ってしまいそうになる自分に、そう言い聞かせる。

創介さんだって、社内でいろんなことを言われていたのかもしれない。

それでも、私には何も言わず優しい笑みを向けてくれて、毎日仕事を頑張っている。私が頑張らないでどうするのだ。

「うん。そうだよ」

誰もいない部屋で、声を出す。

そうしていないと、この広すぎるほどの部屋で弱い心に負けてしまいそうだったからだ。

頑張っている創介さんの、支えになれる妻になりたい――。

その気持ちだけが、私を強くするような気がした。

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