雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
それからすぐの土曜日。
初めて過ごす一人の週末は、部屋の広さを実感した。
150㎡の3LDK。30畳を超えるリビングは、一人で過ごすには広すぎる。そして、創介さんがいない寂しさをより感じてしまう。
夜には創介さんが電話をしてくれると言っていた。バンコクとの時差は二時間程度だから、休日の今日はいつもよりゆっくり話せるだろう。
あの声を聞けば、私はまた元気になれる。それまで、家のことは全部済ませておこうと家事を片付け、そして食料の買い出しに出かけた。
土曜日の表参道も、人で溢れている。深まる秋の気候の清々しさが、街並みを彩っていた。
「あれ、もしかして、戸川さん……?」
一番近くにある食料品店へと歩いて向かっている時だった。真正面から歩いて来た女性に、名前を呼ばれる。
その声の主に視線を向けると――それは、大学時代の同級生、ユリさんだった。
反射的に身体も表情も強張る。ユリさんとこうして二人で相対するのは、大学一年の春休み以来だ。
――創介さんはあなたのような家の人が近付いていい人でも、ましてやまともに交際できる人じゃないのよ。
そう言われたあの日以来。あれから私は、意識してユリさんとは接しないようにしていた。もう大学を卒業して二年半。こんな風に偶然に会うのは初めてのことだった。
「やっぱり……戸川さんだ」
咄嗟に気付かないふりをしたい――そう思ってしまった。でも、こうして向かい合っている以上そんなこともできない。
「久しぶり……だね」
どうしても声が硬くなる。
「これから、買い物とか? あぁ、もしかして、この辺に住んでる?」
綺麗な栗色の髪が学生時代とは少し違って、長い髪になっていた。あの頃より大人の女性になったのだと実感する。
「うん」
ユリさんのまじまじと私を見つめる視線に、落ち着かない。
「指輪――」
「え?」
その視線が私の左手薬指に向けられているのに気付いた。
「……創介さんと、結婚したんでしょう?」
鋭い視線が今度は私に向けられる。やはり、ユリさんは知っていた。何と答えたらよいか分からない私に、ユリさんが畳みかける。
「ねえ、せっかく久しぶりに会えたんだし、お茶でもしない? 少しは時間あるんでしょう?」
「でも、これから買い物しなくちゃいけなくて――」
咄嗟にそう言っていた。ユリさんと二人で向かい合ったところで、何の話をするというのだろう。仲良く昔を懐かしむ間柄じゃないことは、お互いよく分かっているはずだ。
「少しなら、いいでしょ? いろいろ、お話したいの」
半ば強引に私の腕を掴む。その手のひらの力は、華奢なユリさんから出ているとは思えないほどの強さだった。