雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「だって、凄いことでしょう? あの頃、誰もがみんな創介さんの本命の彼女になりたかったのよ。それでも、誰一人そんな立場にはなれなかった。それなのにあなたは結婚にまでたどり着いた。どうして戸川さんなら良かったの?」
その笑顔は、張り付いたみたいに変わらない。
「黙っていないで教えてよ。創介さんに出会わせてあげたのは、私じゃない!」
でも、それもすぐに消え去った。
「あなたはずっと創介さんに守られていたから、何も知らないんでしょうね。でも、私が教えてあげるよ」
私が何も言葉を発せない分、ユリさんが次々と言葉を吐き出していく。その度にユリさんの表情が歪んで行く。
「創介さんの周りにはたくさんの女の子がいた。あなたも知っている通り、私も創介さんに抱かれたわ。でも、私だけじゃない。身体の関係を持っても、それで特別な関係になれるなんて誰も思わなかった。でも誰もが心の奥底では、”もしかしたら私は特別かもしれない”と思いたかった」
ユリさんも創介さんに抱かれた――。
そんなこと、創介さんに出会ったその日に知ったことなのに。今この瞬間、どろりとした何かが胸に広がる。
無意識のうちに、膝の上で握りしめていた手のひらにぎゅっと力を込めた。
「だけど、そんな”もしかしたら”は起きなかった。それでも誰もが素直に諦められたのはどうしてだと思う?」
さっきからずっと忙しなく動き続けているユリさんの唇が視界に入って、咄嗟に目を逸らす。
「それは、絶対に自分じゃ敵わない人が創介さんの縁談相手だからよ。宮川凛子さんならしょうがないって、みんな自分に言い聞かせられた。今じゃ、本当に総理の娘でしょ?」
宮川凛子さん――私はきっと、一生のこの名前から逃れられない。
そんな気がした。