雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「……そうね。創介さんも……かもしれない。だって、この世界のセオリーに反することをしたんだから仕方ないでしょう。でも、それくらいの苦労、あって当然よね。戸川さんは、妬まれるのすら優越感でしょ?」
そこまで言い終えると、ユリさんは大きく溜息をついて、カフェオレを口にした。
目の前にあるカップの中で揺れるブラックコーヒーの表面をただ眺める。
「来月、経済界のパーティーがあるよね。そこでは、あなたも少し覚悟をしておいた方がいいかも」
カップをテーブルに置くと、ユリさんが再び口を開いた。
来月の経済界のパーティー……。
そう言えば、年末年始にパーティーがあると創介さんが言っていた。
「夫婦同伴のパーティーだったはず。当然、あなたも行くんでしょう?」
「……え?」
創介さんが行くということは聞いていた。でも、私も一緒に行くということは聞いていない。
「もしかして、聞いてないの?」
考え込む私に、ユリさんがフッと笑った。
「――あなたは連れて行かないつもりなのかもね。あなたを公の場に出したくないって、思っているのかも。あなたじゃあまりに……」
恥ずかしい――。
その言葉を言わずに、ユリさんは代わりに違うことを口にした。
「戸川さんも気苦労が絶えないだろうけど、榊創介を手に入れたんだから静かに過ごしていればいい。妻として表に出してもらえないからって、拗ねたりしちゃだめだよ」
同じようなことを奥様方にも言われた。誰も彼もが同じようなことを言う。私にそんな気持ちはない。
自分なんて、そんなもの――。
「私が表に出ないことが創介さんにとって本当にいいことなら、私は迷わずそうする。そのことに何も感じたりしない」
この日初めて、ユリさんを真っ直ぐに見つめた。
自分がどう思うかじゃない――。
「私は、創介さんが望むことを第一に考える」
ユリさんに何を言われても、その言葉に答えることに意味はないと思っていた。
でも、そう言ってしまっていた。
それは、私のちっぽけな意地だろうか。
ユリさんは何も言わなかった。