雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

 創介さんの顔を思い浮かべて目を閉じた時、バッグの中のスマホが鳴った。急いでそれを耳にする。

(雪野か?)

創介さんの声をとても懐かしく感じた。ただ私の名前を呼ぶ声を聞いただけで、泣き出したくなってしまう。

「はい」

声が変に掠れそうになるから、ただ短く答えた。

(夕飯はもう食べたか? そっちは七時を過ぎたくらいだろ?)
「あ……っ」

結局、ユリさんと別れてから買い物をするのも忘れて帰って来てしまった。逆に創介さんに問い掛けることで話の矛先を変えた。

「創介さんは……? これからですか?」
(ああ。こっちはまだ、夕方だからな)

耳に触れる創介さんの声が、私の心をじんとさせて。より近くで聞きたいと、スマホを掴む手に力が入る。

(今日は、何をしていた? 何か、変わったことはなかったか?)

今日――。
その言葉に、息を飲む。

奥様方のお茶会の話も、創介さんに心配をかけない程度には報告していた。

でも、この日あったことは、創介さんに報告するようなことじゃない。ユリさんに会っただなんて、そんなことを言ったら気まずくなるだけだ。

(どうした? 雪野)

そう思っていても、この心のもやもやを解消したくてたまらなくなって。淋しさと焦がれる気持ちが、私の心を激しく揺さぶる。

「あ、あの……、ユリさん――」
(ん? ゆり?)

創介さんの口から出た『ユリ』という名前に胸が痛くなって、すぐに打ち消した。

「い、いえ。今日は溜まっていた家事をしました」
(そうか。手伝ってやれなくて悪いな)
「ううん。家が広いから、その分持て余していた時間を潰せました」

涙が滲みそうになる目を擦り、笑顔を作る。

(……マンション、一人だと、寂しいか?)

少し甘くなった創介さんの声。
やっぱり、今日の私はだめだ。声を聞けば聞くほど、甘えてしまいたくなる。

出張先での仕事が、どれだけ神経を使うものか知っているのに。

「そうですね。部屋が広いから、寂しく感じるよ」

スマホを両手で握りしめる。こんなに声は近いのに、触れることも出来ない。
寂しさを打ち消すために明るくそう答えた。

< 93 / 380 >

この作品をシェア

pagetop