雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


 午前中で仕事を切り上げ、電車に乗り会場へと向かった。

『日本文化を守る団体の名誉理事の方の講演と、立食パーティ―なんです。会場はホテルだから、準備はすべてホテルの方たちがしてくれます。ただ、来てくだされば大丈夫よ』

栗林さんからは、そんな説明を受けただけだ。急な話だったから、正式な案内状ももらっていない。場所と時間を教えられただけだ。

 初めての場所だ。前回の失敗を繰り返したくない。何か気を付けておくことはないかと奥様に聞いてみたけれど、『服装さえきちんとしていれば大丈夫。気軽な気持ちで来てくれればいい』と言われただけだった。

 開催日をヒントに何か情報は得られないかと自分でもインターネットで調べてみた。でも、それらしきものはヒットしなかった。

 情報を得るにはあまりにも時間がない。

 もしかしたら、本当に限られた人にだけ出席が許された会合で、セキュリティー上、大々的には公表されていないのかもしれない。

何が起きても動じないように――。

そう身構えることくらいしか出来なかった。

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